柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

「あばれはっちゃく」は初恋の物語

長太郎の恋敵

あばれはっちゃく』には長太郎の恋敵である人物がシリーズ通して登場してきました。その恋敵の共通の設定が父ちゃんの上司の息子、成績優秀、スポーツ万能の優等生のハンサム。名前に「彦」が付くでした。この人物設定は、初代『俺はあばれはっちゃく』の吉井正彦から始まって、代々受け継がれていきました。

正彦は、原作『あばれはっちゃく』にも登場してくる人物なのですが、ドラマ化された時にかなりドラマのオリジナル設定が追加された登場人物の一人です。原作の正彦は父ちゃんの上司の息子ではありません。ハンサムで成績優秀な人物であり、ボクシングも習っていて運動神経もあって強い印象があったのが、実はそれははったりであり、転校が多い正彦が転校先で舐められないように自分を強く見せるためのものだったりします。

また、正彦の容姿も色黒で眉が太くてはっきりしているとあって、ドラマで正彦を演じた草間光行さんの容貌と比較すると、原作とドラマの正彦の人物像にかなりの違いを感じます。原作の正彦にある要素をドラマの正彦の性格や人物像に少し取り入れながらも、ドラマはドラマで新たに正彦の人物像を作り上げたように思います。また、正彦は父子家庭でしたが、その後に続くシリーズの正彦系統の人物も、3代目『熱血あばれはっちゃく』の輝彦以外は、片親(父子家庭だったり、母子家庭)という設定になっています。

原作の正彦の人物設定の中で、特にドラマに持ち込まれたのは、女の子達に人気があって、ファンが多い部分だと思います。気になる女の子のヒトミちゃんがいる長太郎にとって、ヒトミちゃんも正彦に好意を持っているということは、心中、穏やかではない訳です。

原作のヒトミちゃんの場合は、正彦の見せかけのカッコつけの真相を知った上で、そんな正彦を許して助けて欲しいと長太郎にお願いしているので、正彦に夢中になることはないのですが、この正彦が女の子にモテるという要素はドラマで大きく生かされたように思います。

例えば、20話「あばれ孫悟空マル秘作戦」で孫悟空の役を決める時に「正彦の方がかっこいい」と明子が言って多く賛同を得ていたり、24話「やったぜデートマル秘作戦」で長太郎にデートのアドバイスをする場面で、東京にいた頃は女の子とちょくちょくデートをしていたと正彦が自慢していて、正彦がとてもモテる人物である印象を強くしています。また、初登場の2話で勉強も運動もしっかりこなして賞賛を浴びる場面もあって、原作でははったりであった部分が、ドラマの正彦ははったりではない本物になっています。

私はドラマの正彦に馴染んでから、原作を読んだので原作の正彦に対して軽い失望を感じたのですが、同時に転校先でいじめられないように、実際は弱い人間が強く見せかけて自分自身を守っていたことを知った時に強い共感を覚えました。私自身が転校してからいじめにあったことやいじめられないようにどうしたらいいのだろうかと悩んだことがあったので、原作の正彦の気持ちに共感したのです。私は、この原作の正彦の狡い考えは、生きる為の1つの方法だと思うのですね。人によっては許せない人もいるとは思うんですが……。

ドラマで完璧になった正彦ですが、原作の正彦が持つ、本当はとても憶病で不安を抱えながら生きている繊細な感情は、ドラマの正彦にも実は受け継がれていて、また、原作の正彦が持っていたはったりの部分もちゃんとドラマの正彦にも反映されているんですね。それがしっかり出ているのが、35話「泣け優等生マル秘作戦」亡くなった母親のことを盛って作文に書いた正彦。

正彦のはったりというか、強がりな部分というのは、それ以前にもちょくちょく出ていて、11話「お作法破りマル秘作戦」で自分も本当は小田原先生の正体に気づいていた、と言ってみたりして、実在以上に自分が出来る、優れているというのを強調していたりします。実際に正彦は優秀なのに、さらに優秀に見せようとするのは、原作の正彦がそういう人物だったからだと思います。

また、正彦のそういう実物以上に自分をよく見せようと少しの嘘をつく理由が、見栄の部分があるにせよ、それ以上に原作もドラマの正彦も繊細で傷つきやすい心を守る為であることであり、それゆえに、憎めないというか、逆に共感を感じるものになっています。

私は、こうした原作とドラマの正彦の性格の重なる部分に気づくようになって、原作からかなり人物像を変えたように思えた正彦が、実は原作の正彦の性格をかなり汲み取り、原作が発表されて9年経っていたこと、また、小説からテレビドラマの映像表現に変わったことで、原作の正彦の芯の部分と目立つ特徴を考慮して、ドラマ用に人物設定を作り出していたのだなって思うようになりました。

ドラマの正彦は長太郎にとってヒトミちゃんの関心を奪う脅威の存在として位置づけられていて、原作の正彦が女の子や大人の女性にも人気があるところを特にデフォルメして、分かりやすい人物として、長太郎の恋敵として位置づけられたなのだと思います。

ただ、原作を読むと女性に取り入るのが巧い正彦を長太郎が快く思っていないのはドラマと同じなんですが、ヒトミちゃんを巡って恋敵の関係であるかというと、そうでもなくて、ヒトミちゃんも正彦の気持ちを理解して面倒は見るけれども、正彦に恋愛感情を持っていたかというととても微妙で、それは正彦に対しても言えることなんですよね。長太郎の方が必要以上に正彦とヒトミちゃんの関係を意識していたという感じ。

この長太郎が一方的に正彦に敵意を向けていたというのは、ドラマ『俺はあばれはっちゃく』の方でも出ていて、また、ヒトミちゃんと正彦の恋愛感情を待ち合わせていないけれども、仲が良い関係というのも、ドラマには出ているように感じました。ヒトミちゃんは正彦を良い友人と思っているし、それは正彦の方も同じで、さらに正彦は女の子に好かれるならそれはとても嬉しいという感覚でヒトミちゃんに好意を持っているように見えるんです。

ドラマの正彦がヒトミちゃんに恋愛以上の感情を持っていないと私が思うのが、17話「走れ初恋マル秘作戦」でヒトミちゃんがいる目の前で、タマエに自分をアピールして売り込んでいたり、ヒトミちゃんが恵子ちゃんと明子と小百合に仲間外れにされた39話「逃げろヒトミちゃんマル秘作戦」でも、ヒトミちゃんをフォローすることなく、恵子ちゃん、明子、小百合と博物館に行く約束をしているからです。特に39話は正彦が撮影したヒトミちゃんの写真がきっかけになっているのにも関わらずです。

だから、私は正彦はとても素敵で女の子にモテるから、長太郎はヒトミちゃんも正彦に惹かれていくんじゃないかって心配だから、正彦を恋敵だと思っているけれども、それは長太郎の一方的な思い込みだと思っちゃうんですよね。35話で長太郎が正彦の家出を手伝った時に、長太郎が正彦にヒトミちゃんと仲良くするなって条件を出して、正彦はそれを渋っていましたけれど、それは女の子にはなるべく多く好かれたいという気持ちが大きい正彦にとって、クラスの女の子の中でも、かなり好印象を持っているヒトミちゃんと仲良くできなくなるのは、嫌だなっていう感情があったからだと思うんです。

正彦は少しヒトミちゃんを他の同級生の女の子よりは、52話「恐怖の劇画だマル秘作戦」での明子と小百合に対する態度とヒトミちゃんに対する態度をみれば、ヒトミちゃんの方を贔屓していると思うんですけれども、それでも明子と小百合の前ではあくまでも紳士的に2人に接しているのを見ていても、女の子達には平等に優しい。女の子をエスコートすることに慣れていて、女の子を喜ばせて、仲良くすることが自然に出来るというか、それが生きがいな人物だと思うんですよね。

悪く言うとプレイボーイというか、正彦の凄い所は、演じていた草間光行さんの持つ雰囲気もあったと思うのですが、女好きな下品さがなくて、女の子に優しいという優しさの方が前に出ているところなんですよね。基本的に女の子に優しくするのが先に来ているんですけれども、だからといって男の子に冷たいかというと、そうでもなくて、長太郎と公一が喧嘩をした時24話「モヤシも男だ!マル秘作戦」では、ヒトミちゃんと一緒だとはいえ、2人を心配して長太郎にモヤシのことを報告していたりしていますからね。

明確にヒロインに恋していたのは2代目の邦彦

ドラマ正彦はヒトミちゃんに対して好意は持っていたけれども、恋愛感情は持っていなかったというのが、私の見解でこのヒロインに対する感情は、後のシリーズ作品の正彦に該当する人物達にも受け継がれていったように思うんですよね。4代目の信彦はまゆみちゃんに対して自分をかなりアピールはしていましたが、34話「サイコロ・テストだマル秘作戦」で、まゆみちゃんのカンニングを疑ったりしていましたし、中学受験でまゆみちゃんと別れる可能性があっても中学受験をしていたりしていて、こう、信彦も正彦と同じように好意はあるけれども、恋愛感情までに至っていないというか、それでも信彦は、まだ正彦よりは恋愛感情に近いものはあったかもしれないなって思うんですけれども、それでも、やはりその感情は、まだ、弱かったように思います。

2代目の克彦はみゆきちゃんの方が克彦に気持ちが惹かれていて、克彦にとってのみゆきちゃんは正彦にとってのヒトミちゃんと同じくらいの良き友人であったように思います。3代目の輝彦と5代目の秀彦のヒロインに対する感情に対しては、これといった決め手を感じないのですが、私が失念しているだけかもしれません。5代目の秀彦は21話「なるほどザ・奄美大島」であかねちゃんと奄美大島に行ったことをビデオレターで長太郎に自慢していましたけど、それも好きな女の子との旅行が嬉しくてというよりは、モテる自分の自慢に見えました。

そんな中で、ドラマの中で明確にヒロインが好きで、恋をしていることがはっきりと表現されていたのが、2代目の5年生の時の長太郎の恋敵だった佐藤邦彦です。長太郎のライバル、恋敵と呼ばれる人物の中で、長太郎が好きな女の子を自分も好きで、恋をしていると自身の口で言ったのは、邦彦だけなんですよね。

邦彦が52話「愛してみゆきちゃんマル秘作戦」で博多に転校することになって、長太郎とみゆきちゃんの関係に嫉妬して、みゆきちゃんを好きな気持ちを持つ自分は悪いことをしているんだろうかと悩んで寺山先生に相談する。

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初代『俺はあばれはっちゃく』の長太郎が一方的に正彦に恋敵として持っていた感情を、2代目『男!あばれはっちゃく』では、邦彦の方が持っていたという。邦彦の恋に悩む姿に対して、長太郎のみゆきちゃんに好かれているという自信満々の態度は、恋愛に対しての感情が邦彦の方が先に育っていて、長太郎はまだみゆきちゃんが好き、だからみゆきちゃんも俺を好きという単純なものだったように感じます。

それが、邦彦と入れ替わる形で転校してきた克彦にみゆきちゃんが強く関心を向けるようになってから、2代目の長太郎が、初代長太郎が正彦に持っていた感情、邦彦が2代目長太郎に持った感情を、克彦に持つようになったと思うんですよね。これは、私がドラマを見てそう感じ取っただけなので、「そんなわけあるか!」って思う人もいると思うんですけれども、私はそう感じたわけです。

初恋の物語

昔、『あばれはっちゃく』のファンサイトの掲示板で、あるファンの方の書き込みを目にしてから、私の中で『あばれはっちゃく』という作品に対する印象が変わりました。

あばれはっちゃく』は初恋の物語なんだよね。最後はヒトミちゃんと別れることは分かっているから、最終回が近づいてくると、悲しくなってしまうんだ。

それまで、いろいろな危機をいろんな閃きで解決していく痛快で破天荒なガキ大将のあばれはっちゃくの楽しい物語だと思っていた私でしたが、そうか、これは初恋を経験した男の子のお話だったのか、と。また、9年前(2014年)に山際監督にインタビューした時にも、小学生の疑似恋愛とヒロインの存在が受けたんじゃないかと言われたのを聞いて、そうか、なるほど、このドラマはあのファンの人が書き込んだように、初恋のドラマだったんだなって強く思うようになったのです。

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「小学生における疑似恋愛」なんてものは、描く必要もなかった時代なのね、「子どもは子ども」っていう感じで。まぁ明るく楽しくやってりゃいいみたいな。ところが『はっちゃく』になって、僕はもうああいう、乱暴で元気の良い子どもの時代じゃないと思ってたんですけどね。やっぱりヒトミちゃんの存在、「ヒロインがいる」っていうのが、受けた原因じゃないかと思ったんですよね。

それから、私は恋愛ドラマとしても、『あばれはっちゃく』という作品を見るようになっていきました。すると、長太郎の恋敵とされる人物達のヒロインに対する感情が、恋愛未満であることに気づてきて、長太郎の一方的な嫉妬心やライバル心が大きかったんだなって思うようになってきて、それでも、恋敵もヒロインを好きなんじゃないかなって思う描写もあって、それゆえに長太郎も敵意を持つんだけど、それも曖昧で、それはどうしてなんだろうと私なりに整理するようになったのです。

すると、そんな中で邦彦だけが明確にみゆきちゃんに恋していることを明言していたんですね。この邦彦のはっきりとしたヒロインみゆきちゃんに対する恋愛感情は、正彦とは全く違う個性で、大きな差になっているんです。そして、邦彦が去った後に、邦彦よりも正彦の人物像に近い克彦が転校してきて、みゆきちゃんが克彦に恋愛に近い感情を示したことで、長太郎の恋愛感情の変化というか、成長を見ることが出来るんです。

2代目は恋敵が変わり、その恋敵のヒロインに対する感情を違うものにすることで、長太郎の恋愛感情の成長を描いていたわけですから、そういう面においても、恋愛ドラマとしてとても優れていた作品だったんだなって思います。他のファンの方のドラマの視点は、私自身が気づかなかった新しいドラマを見る視点を教えてくれて、さらにドラマを楽しませてくれます。

ああ、こういう視点やこんな形でドラマを見ることも出来る。多くの楽しみ方が出来るドラマ『あばれはっちゃく』は奥が深いなって、そんなふうに思います。