1980年10月18日放送・脚本・市川靖さん・松生秀二監督
ここでカメラ
前回の記事で3代目からカメラになったと書きましたが、2代目30話のアバンタイトルから長太郎はカメラを使っています。3代目のアバンタイトルで画家の長太郎をカメラマンにしたのは市川靖さんでしたが、市川靖さんは既に2代目で長太郎をカメラマンにしていたのですね。今回のアバンタイトルは本編に少し繋がりを感じるアバンタイトルになっていました。
脚本家、題材は同じでも
今回はみゆきちゃんを写真のモデルにして、フォトコンテストに応募する話。初代『俺はあばれはっちゃく』でもヒトミちゃんが写真のモデルになって注目される話がありました。それが39話「逃げろヒトミちゃんマル秘作戦」です。監督は初代39話では山際永三監督、2代目30話では松生秀二監督で違うのですが、脚本はどちらも同じ市川靖さんです。
初代39話と2代目30話では同じ部分もあるのですが、初代39話と2代目30話はその共通する部分がありながらも、また、違うテイストの話になっているのが面白いです。ヒトミちゃんやみゆきちゃんが写真のモデルとして違うクラスの男の子達に人気の的になっていて、女友達(恵子ちゃん、明子、小百合、弘子ちゃん、和美ちゃん)にやっかまれる部分は共通しているものの、共通する部分は寧ろそこぐらいで他は違うなって感じました。
初代39話の場合は正彦の写真がきっかけでヒトミちゃんに注目が集まり、男子生徒の注目を集め、恵子ちゃん達からやっかまれ、本格的にヒトミちゃんがモデルの仕事をしていく展開になっていきます。その過程で恵子ちゃん、明子、小百合がヒトミちゃんをやっかいんで悪意をむき出しにして敵意の言葉をヒトミちゃんに直接言い放ちます。
2代目30話でも、みゆきちゃんばかりに男の子達が群がる中で、弘子ちゃんと和美ちゃんが文句を言ってきますが、みゆきちゃんに対しても文句を少しは口にするものの、大半は自分達に目を向けない男の子達に対する文句で、みゆきちゃん本人に敵意の言葉を直接ぶつけていません。
そのせいか、ヒロイン(ヒトミちゃん、みゆきちゃん)の女友達のヒロインに対する感情の辛辣さが初代の方が強かったように思いました。これは、モデルの話に乗り気ではなかったヒトミちゃんがモデルの仕事を引き受けようとするきっかけとして、恵子ちゃん達の辛辣な言葉、嫌味が必要だったせいかなって思いました。
恵子ちゃん達からの反発からモデルの仕事引き受けたことで、ヒトミちゃんも長太郎も思ってもみなかった事態になってしまって、そこからどうしたらいいのかと発展していく、大人でも判断を間違うことがあるのに、子どもなら尚のこと自分の手には負えない事態に発展していくことへの戸惑いとそこからヒトミちゃんを救い出す、長太郎の無謀な行動が初代39話の中心、見どころだったなっと私は思っています。
2代目30話は、みゆきちゃんをモデルにして撮影しようとした長太郎が自分では撮影が出来ずに、寺山先生の写真を使ったことで、長太郎が想定しなかった事態に発展していき、本当のことが知られたらどうなってしまうか、その収拾をどうつけるかという部分が醍醐味なところで、ヒロインが写真のモデルになって長太郎が想定しなかった出来事が起きるというのは同じでも、その出来事の中身が違うなって感じました。
正彦と邦彦
初代39話と2代目30話で共通しているようで違うなって感じたのは、正彦と邦彦の立ち位置でした。初代39話は正彦が撮影したヒトミちゃんの写真がきっかけになっていて、長太郎がヒトミちゃんのファンクラブを作ってしまったことから、ヒトミちゃんと恵子ちゃん、明子、小百合の中に亀裂が入ってしまって、ある意味、事件の発端を作ったのは正彦なんですが、その当事者の正彦は恵子ちゃん、明子、小百合達と博物館にいく約束をしてヒトミちゃんが仲間外れにされてしまうのですね。
問題を作った張本人の正彦は騒動の外側にいて、うまい具合に人間関係を壊すことなく日常を送っているという。一方、2代目の邦彦はフォトコンテストのことを知って、みゆきちゃんをモデルに撮影したいと思ったのに、弘子ちゃん和美ちゃんに撮影をお願いされて断り切れずに、巻き込まれてしまっているという。
正彦が騒動のきっかけを作り出したのにうまい具合に騒動の外にいたのに対して、邦彦は巻き込まれてしまったというのが違うなって、それでいて邦彦は巻き込まれながら、勝手にそこから外されてしまった形で終わっているのが、なんというかいいように振り回されてしまったなって感じるところです。
邦彦は初代の正彦に該当する人物なのですが、以前にも書きましたが正彦と違ってクラスの女の子達の恋愛対象、憧れの対象にはなっておらず、また、友人関係での立ち位置も正彦と比べるとスマートではなかったというか、不器用な部分があって、そこがちょっと正彦とは違うなって感じます。
邦彦がみゆきちゃんが男の子達と撮影しているところに弘子ちゃん、和美ちゃんと来て、弘子ちゃんと和美ちゃんがそれを見て、みゆきちゃんと男の子達に文句を言っている後ろでみゆきちゃんを撮影しようとしながら、弘子ちゃんと和美ちゃんにちゃんと自分の思いを伝えることも出来ずに、2人に振り回されてしまう邦彦は優柔不断なのかもしれませんが、みゆきちゃんがいいとはっきり言えないのは弘子ちゃんと和美ちゃんを傷つけてしまうと考えられる邦彦の優しさなんだなって思います。
私が今回の邦彦が巻き込まれながら、その騒動から勝手に外されたなって感じたのは、弘子ちゃんと和美ちゃんが邦彦の写真を寺山先生が撮影した写真に変えたと知った時でした。
邦彦はちゃんと自分で弘子ちゃんと和美ちゃんを撮影していたんですね、だからその出来に対して弘子ちゃんと和美ちゃんが文句を言っていたわけで、でも弘子ちゃんと和美ちゃんが写真を郵便局に出しに行ったときに、長太郎にあって寺山先生の写真にしたことを話していて、邦彦の写真は弘子ちゃんと和美ちゃんに否定されている。
自分の撮影した写真を拒否されて寺山先生の写真を使われてしまった邦彦がなんだか可哀相でした。そんな邦彦は長太郎も同じだというので少しは安心したかもしれませんね。ふと思うに邦彦は勉強は出来るけれども、9話の「あばれアニメだ」の時や今回の写真等、芸術面はちょっと苦手なのかもしれませんね。
また、この話でも邦彦のみゆきちゃんを思う気持ちが見えるので、やはり後に邦彦が転校していってしまう52話「愛してみゆきちゃんマル秘作戦」に繋がっているなって思いました。
寺山先生の優しさ
今回『男!あばれはっちゃく』30話の問題を解決したのは、寺山先生の大きな優しさでした。自分自身が恥をかくことで、長太郎を守ってくれた寺山先生。この寺山先生の大きな心が事態を収拾してくれました。もちろん、寺山先生は優しさだけでなく、厳しさもちゃんと示していて、ただ優しいだけではないところがいいなって思います。
寺山先生が長太郎の為に言った本当のこと(撮影者が自分であるということ)自分が応募したけれども気恥ずかしくて長太郎の名前を使ったという嘘のこと。本当と嘘の二つで自分が恥をかきながらも、長太郎を守った姿に人を守るということは、自分自身も傷つく覚悟をすることなんだなって思いました。
また、真実だけが人を救うのではないのだということも感じて、すべてが綺麗ごとだけで解決するのではないのだと思いました。世の中には、ままならないことがたくさんあって、自分の信念を曲げなければいけないこと、守れないことがあることを私は大人になって体験してきました。
子どもの頃は嘘を言わなくてはいけなかった寺山先生の気持ちがあまり分からなかったところがあったのですが、大人になって分かる部分が増えて、寺山先生の心の広さと強さを強く感じました。
また、今回も29話同様にみゆきちゃんにはお見通しだったようで、長太郎に話しかけているみゆきちゃんに長太郎をちゃんと見ていて理解しているんだなって感じました。みゆきちゃんの長太郎に対する見方も、また、後の52話に繋がっているなって感じました。