柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『男!あばれはっちゃく』76話「捕物手帳だ」感想

『男!あばれはっちゃく』76話より

1981年9月19日放送・脚本・安藤豊弘さん・川島啓志監督

悪人が出てこない事件物

この話は推理物として、事件物としても、とても面白く楽しい話だなって思いました。長太郎が手錠や警察手帳、ピストルなど、警察が使う道具に興味を持ち、悦子ちゃんの父親で交番の警察官である木村巡査に、ピストルを見せて欲しいと頼みますが、もちろん断られ、それならせめて警察手帳を見せてというものの、そこに上司の警官が来て、木村巡査がお茶を入れていた時に誤ってお湯を腕にかけてしまい、木村巡査は着替えに奥に行き、さらには乗客の忘れ物を届けに来たタクシー運転手さんが来たことで、長太郎の頼みはなし崩しに中断されます。

木村巡査が着替えて戻ってきた時は、上司の警官が紛失届の手続きを終え、長太郎が木村巡査の上着をいじっていたけども、帰らせたことを話すと、木村巡査は上着を取ってみると、上着に入れておいた警察手帳がなくなっていることに気づきます。そこで、木村巡査は長太郎を疑って、直接、長太郎に聞きに行くのですが、もちろん、長太郎には身に覚えがないこと。長太郎は文句をいうものの、木村巡査は上司から警察手帳を失くした他の警官の話を聞いて、なんとか、警察手帳を取り戻そうと考えます。

長太郎も自分が疑われたことや、警察手帳を取り戻すために必死な木村巡査を見て、警察手帳を探すことに力を貸します。また、そんな事件が起きる前に、木村巡査は悦子ちゃんから、手作りの警察手帳のカバーをプレゼントされています。警察手帳にカバーをつけることは禁止されているというものの、使わない時はつけていて、と言われて警察手帳にカバーをつけてもらっています。

『男!あばれはっちゃく』76話より

この手製のカバーの件が事件の事前にあることが、警察手帳の紛失の謎、さらには、その直前に来た紛失物の中身と繋がり、さらに人の思い込みや盲点が重なって、事件が発生していて、ちゃんと話が繋がっていて、収斂されていくことになります。悦子ちゃんのお父さんを思い、気遣う気持ちが、長太郎のちょっとした好奇心と重なったことで、警察手帳紛失という事件に発展してしまうのですが、それぞれ、個別の悪意が全くない人物の行動が、意図しない事件を生み出してしまうというのは、見ていて、とても面白く感じました。

別々の出来事が網目のように繋がっていて、影響を及ぼしていき、一つの事件が生まれれる過程、登場人物の性格から出てくる行動が自然で、関係のない出来事が、こんなふうに繋がって発展していく、さらに、人物の中に悪意を持っている人間がいないのに、こんな大変なことになっていく様子が、なんでもない日常が少しずつ、不安と心配が芽吹いてきて、ちょっとしたボタンの掛け違いのもどかしさを感じてきて、どうなっていくのだろうという興味をそそりました。

もしかしたら……

盗まれた警察手帳が悪用された話を聞いて心配になる木村巡査の為に長太郎も警察手帳が紛失した前後の出来事を思い出して、その時に乗客の忘れ物をしたタクシードライバーの住所を調べて、そのタクシードライバーに話を聞きに行きます。この時に、タクシードライバーを調べる方法が、少しユニークで面白いので、DVDで確認して欲しいです。ここで、この住所を調べると方法を閃く時、いつもお馴染みの逆立ちをしますが、この時に木村巡査が戸惑いながら補助をするも楽しいです。

『男!あばれはっちゃく』76話より

タクシー運転手さんが、長太郎が交番を去った後の出来事をしっかり覚えていて、証言をしてくれたお陰で、事件は解決しますし、また、そのタクシー運転手さんが思い出す回想シーンの中で、どうして警察手帳が消えてしまったのかというのも、一目瞭然で納得出来る場面が出てきて、ああ、そういうことだったのか!と納得することが出来ます。

気づいてしまえば、単純で簡単なことであり、探し物は実はこんなに近くにあったのか!という灯台下暗しの結果になっていて、本当に、なんだ、こんなに近くにあったのね、という結末が安堵と拍子抜けと安心感が同時に来て、ああ、良かったという感情が押し寄せてきます。

もしかしたら、タクシー運転手に警察手帳を取られてしまったのかなって、私なんかはちょっとそんな考えがよぎってしまったのですが、見終わって、そんな疑いをかけてごめんなさいって思いました。警察手帳の悪用事件の話が出たこともあって、とても不安だったのが、そういうのに関係がなくて良かったと、もしかしたらの心配が消えていったのは見ていて爽快でした。

それぞれの出来事が積み重なって

今回の話は、それぞれの出来事が重なり合い、繋がり、関係していって、話の流れが出来ていて、そこに不安を感じさせる要素が降りかかって、さらに話を面白く、疑心暗鬼を生み出して、どうなっていくのだろう、あの短い時間の中で、警察手帳はどこに消えたのだろうという謎解きがあって、その流れに知らず知らずにのって注目して見ることが出来ました。

話の中の一つ一つの出来事を思い出していくことで、謎解きの糸口を掴むことが出来るようになっていて、長太郎視点では見えていなかった事実も、その直前までの出来事を思い出すことで、長太郎とは違う別視点、今回はタクシー運転手さんの視点を長太郎が去った後の視点として知ることで、事件の全貌が見えてくる。無理もなく、後から取ってつけたものもなく、一連の流れと関連性が見事で、さらに警察手帳の悪用の不安を感じる中で、登場人物全員に悪人が登場しないというのが、また、見事で……。

本当に警察手帳の紛失、もしくは盗難事件という大事件で、一人も悪意を持って行動した悪人を出さないで、事件、推理物として成立していて、父親を思う悦子ちゃんの優しさ、木村巡査を立てて思いやる長太郎の男気も盛り込んだ話が書けてしまう、安藤豊弘さんの凄さを感じました。本当に、この話も、また、多くの人に何度でも見て欲しい『あばれはっちゃく』の話の一つです。