柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『男!あばれはっちゃく』68話「あばれサーカス」感想

『男!あばれはっちゃく』68話より

1981年7月18日放送・脚本・山根優一郎さん・川島啓志監督

些細な不注意の積み重ね

長太郎が休み時間のドッヂボールでみゆきちゃんの胸にボールを当ててしまって、長太郎はみゆきちゃんに嫌われてしまいます。そんな時にみゆきちゃんのパパとママが日曜日に鎌倉へ結婚式に行くことになり、日曜日に一人で留守番をするみゆきちゃんのことをよろしく頼むとみゆきちゃんのママが桜間家にお願いしてきます。

そこで、長太郎は仲直りも兼ねて、日曜日に留守番をするみゆきちゃんをサーカスに誘います。長太郎はみゆきちゃんとサーカスに行くことを章に話して口止めしますが、章が約束を破って克彦達に話をしてしまい、長太郎は約束を破った章を激しく怒って殴ってしまいます。

丁度、そこに寺山先生がきて話を聞き、約束を破った章を叱り、また暴力をした長太郎も叱って、2人にそれぞれに謝らせてことを納めます。

ところが、長太郎はみゆきちゃんと行くサーカスの切符を失くしてしまうのです。みゆきちゃんは長太郎に約束を破った章を激しく怒ったくせに長太郎も約束を守れないと非難します。相手に対してしたこと、相手に求めたことが自分自身に返ってくる。

長太郎がサーカスの切符を失くしたのは、学校に持っていこうとして母ちゃんに失くすといけないから置いて行けと言われて置いた場所が父ちゃんの仕事の書類の上で、それで父ちゃんが確認もせずにその上に新聞を置いて、書類と新聞でサーカスの切符を挟んだ状態で仕事用鞄に入れてしまったせいなんですけれどね。

『男!あばれはっちゃく』68話より

『男!あばれはっちゃく』68話より

置く場所を確認しなかった長太郎も悪かったかもしれないけれど、確認もせずに新聞紙を置いて鞄に入れてしまった父ちゃんも悪い。そもそも、母ちゃんが「置いていけ」と言わなければ……と思うけれども、母ちゃんも失くさないようにと思って善意から言ったわけで……。

これで、長太郎がみゆきちゃんと仲直りするチャンスが失われてしまったのが気の毒でした。こうした誰も悪くないのに悪い結果になってしまうのを見るのは、見ていてハラハラします。ちょっとの気づきで回避できたことだと尚更。

同じドジでも

今回は、たびたび長太郎のドジが目立ちます。例えば、最初のドッジボールの後に、みゆきちゃんが自分の部屋でピアノで弾く曲で長太郎にメッセージを伝えると、長太郎はそれを愛の曲だと喜んで受け取りますが、学校から帰ってきた信一郎からショパンの「別れの歌」だと教えてもらった途端、乗り出して聞いていた窓の柵を壊してしまうドジ。

それから、父ちゃんにお願いをしてサーカスの切符を買ってもらい、それをみゆきちゃんに見せて、明後日の日曜日にサーカスに行く約束をして、仲直りの握手をしようとした時に手が届かないので、体を出し過ぎて窓の柵から落ちてしまうドジ。

次が長太郎がサーカスの切符を失くして約束が守れなくなった時に、ベランダからみゆきちゃんに謝って立ち上がったら、物干しに頭を突っ込んで取れなくなったドジ。

『男!あばれはっちゃく』68話より

『男!あばれはっちゃく』68話より

最初のドジをみゆきちゃんは見ていませんが、他の2つのドジは見ていました。そのドジの種類は長太郎のおっちょこちょいが原因の同じ物ですが、みゆきちゃんは長太郎と仲直りした時は、長太郎のドジに対して好意的に見ていて、声も顔の表情も優しく明るいものでしたが、長太郎が約束を守れないと分かった後のドジに対しては、とても冷ややかで声も冷たく表情も長太郎に愛想をつかしたものでした。ドジをした長太郎に「まるでピエロね」と冷たく言い放ち、窓を閉めてしまったみゆきちゃん。

長太郎のいつもと変わらないドジを見せても、好意的な時と軽蔑している時では、こんなにも180度違う態度を示すのかと思いました。

同じドジでも長太郎を許して好意的な感情でドジを見た時は、みゆきちゃんは温かく見守り、長太郎の面倒を見てあげなきゃって思っているんだろうなって声と表情から感じ取れましたが、約束を守れないと分かった後で、物干しに頭を突っ込むドジをした長太郎には、軽蔑して冷たく「まるでピエロね」と突き放していて怖さを感じました。

同じ長太郎のドジでありながら、その時のみゆきちゃんの感情でこうもドジに対する受け取り方が変わる。この対比が私の中で強く印象に残りました。長太郎のショックは大きいものの、そのみゆきちゃんの一言で長太郎は閃きます。

約束を守る

長太郎は自分自身がピエロとなって、みゆきちゃんに自分のサーカスを見せるのです。丁度、克彦とSF映画宇宙大戦争』を見に行くと言ったみゆきちゃん達の通る公演で長太郎はみゆきちゃんと克彦が通りかかったのを見て、「あばれサーカス」を始めます。最初は克彦と共に訝しげに見ていたみゆきちゃんでしたが、次第に懸命に玉乗りや皿回し、重量挙げなどをする長太郎を真剣な目で見ていきます。すると、周囲にいた小さな子ども達も集まって、長太郎のサーカスに釘付け状態に。

しびれを切らした克彦が「映画に行こう」とみゆきちゃんを促しますが、みゆきちゃんは「待って」と言って動こうとしません。長太郎が最後の芸である綱渡りをしていた時に、終にみゆきちゃんが長太郎に声を掛けます。

『男!あばれはっちゃく』68話より
『男!あばれはっちゃく』68話より

「やめて!もういいわ。長太郎君、本当にわたしとの約束、守るつもりだったのね」

『男!あばれはっちゃく』68話より

みゆきちゃん」

「君の気持ち、よく分かったわ。ありがとう」

長太郎はサーカスの切符を探したけれど見つからず、父ちゃんにもう一度買ってとお願いしたけれど断れ(ちなみ長太郎は自分の分は父ちゃんとの約束でお小遣いから出しています)、みゆきちゃんを約束した本物のサーカスに連れていくことは出来なかったけれども、長太郎は自分が出来る範囲で、みゆきちゃんにサーカスを見せる約束を守ろうと自分がピエロになってみゆきちゃんにサーカスを見せた。長太郎のみゆきちゃんとの約束を守ろうと動き、それを実行した長太郎の頑張り、その頑張りをちゃんと見てくれて長太郎を許してくれたみゆきちゃん。

長太郎の姿に堪らなくなって声を出したみゆきちゃんの優しさは、その前日に長太郎を冷たく突き放した姿を見た後だっただけに、本当に雪解けのような温かさを感じて、胸が温かくなりました。私がこの話の中で一番、感動した場面です。代わりに、映画の誘いを断れた克彦が可哀想だなとは思いましたが……。

大円談

一方、桜間家では母ちゃんが父ちゃんの鞄の中に入っていたサーカスの切符を見つけていて、長太郎がみゆきちゃんと家に帰ってきた時に、ピエロ姿の長太郎を見て、母ちゃんの化粧道具や寝間着、父ちゃんの靴や信一郎のラジカセを勝手に使ったことを知って、驚きびっくりしたものの、自分の為にサーカスを見せてくれたと長太郎を庇ったみゆきちゃんの言葉に、サーカスの切符が見つかったことを伝えて、まだ時間が間に合うと父ちゃんがサーカスに連れて行ってくれることに。

父ちゃんはサーカスの切符が自分の鞄から出てきたことを知り、それを知った信一郎からも長太郎から謝れと言われていて、とてもバツが悪そうにしていましたが、ちゃんと長太郎に頭を下げて謝りました。

『男!あばれはっちゃく』68話より

最初はサーカスの切符を失くした長太郎をいつものようにいつもの言葉で激しく叱った父ちゃんでしたが、決まりが悪くても自分が悪いと分かれば、ちゃんと長太郎に頭を下げて謝ることが出来る。私は、そんな父ちゃんが大好きです。また、この話は子どもの頃にサーカスに夢中になった父ちゃんの子どもの頃のノスタルジーにも触れていて、そんなところも好きな話でした。

どんな形であっても約束を守ろうとする姿勢、人を許す心、自分が悪いと分かった時に相手が子どもでもちゃんと謝ることが出来る大人の姿に胸が熱くなる素敵な話だったなって、そう感じました。

『男!あばれはっちゃく』68話より