柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『男!あばれはっちゃく』37話「売るゾ焼き芋」感想

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『男!あばれはっちゃく』37話より

1980年12月6日放送・脚本・市川靖さん・川島啓志監督

巡り合わせ

今回は合気道の稽古にきた長太郎がお寺の前にある焼き芋屋の屋台を長太郎が親切心で勝手に持ち出したことからすべてが始まります。みゆきちゃんがいて、一応の心配はするものの、長太郎と一緒に屋台を引いて回り、さらには公園で遊んでいた和美ちゃん、弘子ちゃん、邦彦、章を巻き込んでいきます。長太郎がみゆきちゃんと一緒に焼き芋屋の屋台を引いて回っていく道中で、本来の屋台のおばさんと事件に巻き込まれていくいつものメンバーが出てくるところがとても面白いです。

ほんのちょっとの時間のズレですれ違ってしまう長太郎と焼き芋屋の屋台のおばさん。屋台を引く長太郎とみゆきちゃんを見かけて協力したことで、事件に巻き込まれる和美ちゃん、弘子ちゃん、邦彦、章の4人。その話に絡んでくる人物がこの長太郎とみゆきちゃんが屋台を引いていく過程で、次々に流れるようにストレスなく登場してくるのがいいですね。この一連の流れは、本当に映像で見た方が楽しいです。

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『男!あばれはっちゃく』37話より

引用画像では分かりにくいのですが、映像で見るとより明確に長太郎とみゆきちゃんが去った後で奥の方の道から屋台のおばさんの姿が見えるので、このタッチの差のすれ違いに、「あ!」と声が出てしまいます。続いて、長太郎とみゆきちゃんが屋台を引いている途中でジャングルジムで遊ぶ和美ちゃんが2人を見つける姿があり、屋台が通りすぎた後で、弘子ちゃん達も出てきてこの4人が長太郎とみゆきちゃんと合流する流れも視線です。

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『男!あばれはっちゃく』37話より

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『男!あばれはっちゃく』37話より

山際監督もそうなんですが、川島監督も画面の手前と奥を巧みに使って、話や登場人物の情報をストレスなく、見事に話の流れの中にいれているなって素人のながらに感じます。『あばれはっちゃく』は正味25分程度の話なんですが、内容がとても濃く感じるのは、映像情報がしっかり濃密にあるからなんだって個人的に思うんですね。

それでいて情報がごちゃついていない、ちゃんと見ている人間の生理にあっているというか、不自然じゃなく見ている方がストレスを感じないように綺麗にいれているから、見ていて疲れないんです。こういうのって、私の下手な説明よりも、本当にDVDで見てもらう方が一番分かりやすい。ああ、どこかで配信してくれないかなあ。

映像の中でのすれ違いや人との関わり合いの流れを映像を通して、面白おかしく伝えるって静かな和みの笑いの癒しだなって感じて、ほのぼのとして、それでいて、ハラハラしていて楽しいなって思いました。

 

何もしなければ何も起きない

長太郎は親切心から道に迷ってなかなかこない屋台のおばさんの代わりに屋台を引いて焼き芋を売っていたわけです。それで、その行為が無駄にならなければ、そこで話は終わったわけですが、長太郎達が売っていた焼き芋が生焼けで客のクレームと返品が来てしまい、屋台のおばさんは怒り、長太郎は例のごとく父ちゃんに大目玉を食らうことになってしまいます。

お詫びとして、焼き芋を買い取るのは当然として、長太郎が屋台を手伝うことを父ちゃんが申し出るのですが、屋台のおばさんは長太郎ではなく、弘子ちゃんにやってもらうと言い出します。これにはみんなびっくり。長太郎は弘子ちゃんは悪くない自分が悪いからと自分がやると言い出しますが、おばさんは弘子ちゃんじゃないとダメだ、と。

本当に弘子ちゃんは巻き込まれた形なので、とても気の毒で。それでも、ちゃんと次の日の放課後に弘子ちゃんを迎えにきたおばさんに嫌な顔をしながらも、ついていって手伝う弘子ちゃんはいいなあって思いました。本当に弘子ちゃんは嫌で嫌で迷惑なんだってのは、その表情や態度から分かるんですけれども、一緒に屋台を引いて回っている時の弘子ちゃんのおばさんに対する態度や全く売れない焼き芋の売り方に対するアドバイスなんかを見ていると、弘子ちゃんって優しいなって感じてしまいました。

そうそう、弘子ちゃんは、いったん家に帰ってからおばさんを手伝うのですが、その時弘子ちゃんの団地の部屋の前に弘子ちゃん宛のプレゼントがあって、それを弘子ちゃんは長太郎のご機嫌取りだと解釈して、長太郎への文句を口にします。これ、この時点で長太郎の仕業じゃないって分かるんですけども、弘子ちゃんはそう思うんですね、多分、当時初めて見た時は、私もそう思っていたかもしれませんし、当時の視聴者の中にもそう思った子ども達が多かったかもしれません。

けれども、翌日に弘子ちゃんがそのプレゼントを長太郎に返して長太郎がそのプレゼントを知らないといったところで、長太郎じゃなければ、誰だろうってなったところで、そのプレゼントの主が誰だか分かる情報が映像で流れてくる。そこも、今見ると、当然の処理なのに、巧いなあって感じました。また、このプレゼントの主が判明したことで、より深く長太郎や弘子ちゃんが屋台のおばさん、名前をカンバラさんと深く関わっていくきっかけになっていくのもいいなあって思いました。

弘子ちゃんへプレゼントを贈ったのはカンバラさん。長太郎が弘子ちゃんのプレゼントを否定した後で、カンバラさんが弘子ちゃんへのプレゼントを今度は直接渡すんだと持っている映像が映り、芋を焼こうとして芋の袋を持ち上げたところでぎっくり腰になり、そこへ和尚さんがやってくる。

和尚さんが学校の門から出てきた長太郎と弘子ちゃん、みゆきちゃんに声をかけて、ことの成り行きを説明したことで、迷惑がっていた弘子ちゃんがカンバラさんの見舞いに駆けつけ、それに長太郎とみゆきちゃんもついていく。こうして、長太郎達は岩手から出稼ぎにきたカンバラさんとより深く関わっていくことになっていきます。

長太郎がいらぬ親切心を出さなければ、何も起きなかったことが、人を巻き込んで関わり合いのなかった人との交流を生んでいくというのは、ドラマの始まりや発端って、こんなにも些細なことから展開するんだっていう面白味を感じさせました。また、このカンバラさんを見舞いにいったことで、カンバラさんが弘子ちゃんに固執する理由も同時に判明するのも面白いところです。

人となりを知らない時と知った後での人への見方

カンバラさんを見舞いにきて、弘子ちゃんがカンバラさんの娘のイクエちゃんにそっくりだというのが分かります。岩手から出稼ぎに来て、寂しいかったカンバラさんが弘子ちゃんにイクエちゃんの面影を見ていたんだってことが分かると、カンバラさんが焼き芋が売れなくても弘子ちゃんと一緒だから嬉しいと言っていたことも、長太郎ではなく弘子ちゃんに手伝ってほしいと言ったことも、一気に氷解します。

自分に娘の面影を見ていて、プレゼントをくれ、腰を痛めているカンバラさんに対して警戒心を解いて、優しく接する弘子ちゃんを見ていると、弘子ちゃんが最初、嫌な顔をしていたのは、カンバラさんが何者かよく分からなかったからなんだろうなって思いました。

また、売る時に声を出すのが恥ずかしいというカンバラさんをよく知らない時にみゆきちゃんに話して笑っていましたが、それは怖さの中に変だなと思う気持ちがあったからではないかなって。

なんだか得体のしれない人間に会うと人は不気味に感じて怖がり、また、自分やこれまでの自分の周囲との差異を見て笑ってしまうってことがあって、それが悪くすると、その人物を排除するいじめに発展すると思うんですが、どんな人か分かって、自分のその人に対する見方が偏見だったり、過度な必要のない恐怖心だったことが分かると、相手に対してそれまでマイナスに感じていたことを悪かったって思うんじゃないかなって思うんですよね。

弘子ちゃんは、元々、優しい子だっていうのもあって、自分を頼ってくれたカンバラさんのことが心配になって、元気になって欲しいと思ったから、会いに来たんだなって。弘子ちゃんからしてみれば、カンバラさんとの出会いは最初はマイナスの感情から始まったけれども、「なぜ?」という疑問が消えれば、歩み寄ることが出来たのは良かったなあって思うんですよ。

ちょっとした出来事で相手の人となりを決めつけて、悪く見るのではなくて、何かしらのきっかけで人の良さを知ることで理解出来る、しようとすることが出来れば、人は人を見下したり、いじめたりなんかしないんじゃないかなあって、私はそんなふうに思うんです。

今度は

長太郎とみゆきちゃんはぎっくり腰になって、焼き芋が売れないと、お正月に田舎の岩手で待つイクエちゃん達はどうなるのかを心配して、カンバラさんの代わりに今度は正式に屋台で焼き芋を売りに歩きます。それを仕事帰りに見かけた父ちゃんと寺山先生は、また長太郎が勝手をしたと怒るのですが、一番の被害を受けていた弘子ちゃんが止めに入り事情を説明すると、父ちゃんは長太郎を「さすが俺のせがれだ」と褒めます。

いいなあって思うのは、父ちゃんは悪いことをしたら全力で長太郎を叩いて怒るんですけども、長太郎がいいことをすると、怒る時と同じ勢いで全力で褒めるんですよね。褒める時って、なんかストレートに褒める親ってあんまりいないって思うんですけども、(私が知らないだけで褒める時に全力で褒めることの出来る褒め上手な親もいるのかもしれませんね)父ちゃんは楽しく嬉しそうに全力で褒めてくれる。

父ちゃんって長太郎に怒るイメージが強くあると思うんですが、ちゃんと長太郎を自慢の息子だと褒めることもあって、これは初代『俺はあばれはっちゃく』で26話「モヤシも男だ」でもありましたね。怒る時は怒り、褒める時は褒める。

こういうのって大事だなって思います。父ちゃんは自分の感情の八つ当たりで長太郎を怒鳴ることもあって、それを長太郎にズバリ指摘されることもあります。それを大人になってみると、親だって成長過程の親なんだなって思えるようになりました。以前にも書いたと思いますが、『あばれはっちゃく』は子どもの頃は子どもの視点で楽しめ、大人になると父ちゃん達の視点で楽しめるドラマで、それは大人達のドラマも人間性もドラマの中にちゃんと描かれているからなんでしょうね。

力仕事は男の子

弘子ちゃんの話を聞いて、長太郎達が屋台をすることは褒められたものの、小学生がアルバイト的なことをするのはと寺山先生が苦言を呈すると、父ちゃんが自分がやると言い出します。弘子ちゃんは自分達がやらないと意味がないと言い出し、困ってしまうと、寺山先生が自分がついてやることで許可を出します。

寺山先生にとっては職務外の仕事になってしまって大変だなって思ったり、初代『俺はばれはっちゃく』で長太郎の代わりに蕎麦屋の出前をすることになった佐々木先生を思い出したりして、メタ的な面白さを感じてしまうわけですが、当時でも少し問題はあったにせよ、現在では小学校の先生が児童の監視、安全確保のための引率だとしても、一緒に屋台をやるというのは、無理があるだろうなって感じました。

ドラマ(フィクション)なので、そこは現実と違うと割り切ればいいでしょうけれども、『あばれはっちゃく』は極めて現実に近いドラマなので、ちょっとごっちゃにしてみてしまうんですね。で、寺山先生は長太郎だけに一言話があると言って、長太郎に故郷を離れて東京で独り暮らしをしている人が家族を恋しがっていることを伝えます。長太郎はそれを素直に聞いて、屋台を寺山先生に任せてどこかにいくんですれども、長太郎が抜けた後で、屋台で特に頑張っていたのが邦彦と章。

この2人、この回ではあまり目立たないんですけれども、長太郎が抜けた後で屋台を引くのが邦彦、押すのが章で、さつま芋を石の中に入れてならして焼くのが邦彦、薪をくべて火を起こしているのが章。この一番大事で大変な作業を邦彦と章でやっているんですよね。最初は屋台のおばさんに怒られてからは、あんまり関わりたくないと言って逃げた邦彦と章なのに、一番大変な部分をちゃんと手伝ってやっている。

邦彦は肝心な時にいなくなってしまった長太郎に文句を言ってましたけど、口だけじゃなく手はちゃんと動いていましたし、それにお前、塾は大丈夫なんかって思いましたが、ちゃんとそれもやっているんだろうなあって。もし塾をほったらかしにしたら、佐藤部長が怒鳴り込んでくると思いますが、それもありませんでしたからね。

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『男!あばれはっちゃく』37話より
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『男!あばれはっちゃく』37話より

弘子ちゃんと瓜二つ

焼き芋屋の屋台を弘子ちゃん達に任せて長太郎は何をしていたかといいえば、イクエちゃんに東京に来るようにと電話をかけていました。長太郎はそれをカンバラさんに報告して、カンバラさんのとこに来ていた弘子ちゃんが駅にイクエちゃんを迎えに行った長太郎に顔も分からないのに大丈夫かしらと心配しますが、カンバラさんはイクエちゃんが弘子ちゃんにそっくりだからすぐに分かると笑顔。

長太郎はイクエちゃんと一緒にカンバラさんの部屋に向かっていて、イクエちゃんと弘子ちゃんが対面すると、弘子ちゃんがイクエちゃんを見て「私だ」と一言。本当に2人はそっくりで、違いはホクロだけ。これは、弘子ちゃん役の戸川絵夢さんの一人二役で髪型以外にも違いを出すために、イクエちゃんを演じる時にホクロのメイクをしたのだと思います。

また、前回のゲストである太陽先生役の増田順司さんも検索をして見つけた画像では、太陽先生の特徴であるホクロがなかったので、多分、太陽先生を捜すのに特徴の一つにホクロを加えて、増田順司さんにホクロのメイクをしたんじゃないかなって思います。自然に特徴や区別をするのに、ホクロというのは、とても都合の良い体の特徴なんだろうなって思いました。

さて、話を戻して、岩手からやってきたイクエちゃんはかなりのしっかり者。ポンポンと的確にカンバラさんの欠点を上げていくんですが、世話の焼けるお母さんの面倒とちゃんと見てくれる女の子なんだなってことが伝わってきます。

弘子ちゃんが指摘した焼き芋を売る時に声を上げるのが恥ずかしいという部分もちゃんとイクエちゃんは分かっていて、弘子ちゃんに言われるよりも、前にイクエちゃんに指摘されてきたんだろうなって思ってしまいます。弘子ちゃんは顔だけでなく、そんな部分でもカンバラさんにイクエちゃんを思い出させてくれていたんだろうなって思うんです。

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『男!あばれはっちゃく』37話より

じょっぱりの癖に気が弱いんだから、これでも俺、忙しいんだよ」

 

イクエちゃんの登場場面は少ないんですけれども、そんな僅かな時間でも、イクエちゃんの存在感、カンバラさんにとっての弘子ちゃんとイクエちゃんの重要度や関係性がしっかりと分かるっていうのはすごいなって思います。どうして、その人がそこに拘りを持つのか、どうしてそれを選ぶのかっていう理由っていうのがあって、それをちゃんと推測できるだけの情報と余裕があるのは、見ていてとても楽しいですね。

ひょんなことから

長太郎のいらぬ親切心から、関わり合うことのない人との関係が生まれて起きた今回の騒動。もしも、長太郎達と関わらなかったら、声をあげて売ることが恥ずかしいと言っていたカンバラさんは焼き芋を売れたのだろうかとか、ぎっくり腰になった後にどうなっていたのかと思ってしまいました。

長太郎は弘子ちゃんにカンバラさんの手伝いをさせるわけにはいかないと、弘子ちゃんが帰った後で駆けつけて、弘子ちゃんと入れ替わる形でカンバラさんのお手伝いをして屋台を引いて焼き芋を売っていったわけですが、これも長太郎だからこそ出来たところはあるわけで、長太郎と関わらなかったら焼き芋も売れなかったろうなって思ってしまいます。

この場合は良い方向へ関係が転がりましたけれども、全てが良い関係や人間との巡りあわせとも言えないので、現実的にはいろんなことに首を突っ込むのも考えものではあるんですが、人と人の出会いや関係性って、本当にひょうんなことから始まるんだなって思います。

現在の視点から文句は出ると思うが

それと、見ていて思ったのは屋台の仕事の分担が男女で力仕事やきつい仕事は男子、軽い仕事を女子が担当していたことや、長太郎がカンバラさんと弘子ちゃんのとこに駆けつける前に弘子ちゃんだけに手伝いをさせるカンバラさんに腹を立てながらも「やっぱり女じゃ無理だな」と言っているのが気になりました。

恐らく、女の子は男が守るべきもの、自分が原因で巻き込んだのだから弘子ちゃんを助けないといけない長太郎の責任感、男の子のほうが女の子よりも体力があるから力仕事という男女の区別からの長太郎の言葉や屋台での男女の仕事分担であり、放送された1980年当時の男女に対する価値観の違いなんだろうと思います。

けれども、現在の視点で見られると、長太郎の言葉や男女の仕事分担、また、弘子ちゃんのプレゼントの中にパンツが入っていて、それが長太郎が手にしてしっかり見られた場面とかは、現在の視聴者の一部からは批判が出てしまうだろうなって思いました。当時の視聴者の中にも不愉快に思う視聴者もいたかもしれません。けれども、そういう意見が出てきたとしても、それ以上にドラマの中で描かれる人間関係の良さにも目を向けてもらえたらいいなって、一人のファンとして思います。