柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『男!あばれはっちゃく』9話「あばれアニメだ」感想

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『男!あばれはっちゃく』9話より

脚本・市川靖さん・山際永三監督

アバンタイトル

時代劇。忍者たちにさらわれたみゆき姫を助けた武士長太郎。刀で立ちまわって忍者を倒し、みゆき姫に感謝されるも自分の腕を切り落としていて痛がるオチ。

本編

遅刻しそうになった長太郎は近道をします。その途中で水溜りにはまって往生している赤い自動車に遭遇し、自動車の運転手の女性から助けを求められます。渋る長太郎でしたが、お礼に車で送ってもらうということから、自動車を後ろから押して助けます。

自動車に乗り、学校へ向かった長太郎は寺山先生とみゆきちゃん達の姿を見つけて、そこで止めてもらいます。自動車の女性は長太郎にお礼を言って、お礼を長太郎に渡します。

長太郎が助けた女性の姿を見て、声を聞いたみゆきちゃんと和美ちゃんからその女性が人気テレビアニメ『紅の騎士』に出演している声優の米倉小夜子だと分かります。長太郎がお礼にもらったのは、その米倉小夜子が出ている『紅の騎士』のセル画。

この絵が動くのが不思議だと言う、長太郎に寺山先生はアニメーションの動く仕組みを授業で教えることにします。

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『男!あばれはっちゃく』9話より

馬の少しずつ違う絵を連続で見せることで、走る馬を見せた寺島先生が残像の説明をして、題材はなんでもいいから、やってごらんと宿題を出します。見ていてこれはフルアニメーションの説明に近いのかなって思いました。

班ごとで寺島先生が説明で出した残像を使った動きのある絵を作る事になり、長太郎はいつものメンバーみゆきちゃん、洋一、邦彦、和美ちゃん、弘子ちゃん達と課題のアニメを作る事になります。

長太郎は『紅の騎士』のセル画をもらったことで、みゆきちゃん達から一時的にアイドル扱いされているわけですが、面白くないのが邦彦。1枚だけのセル画でいばるなんて、僕はもっと持っている、うちのパパは顔が広いからセルに色を塗っている人と知り合いだと言いだします。

当然、みゆきちゃん達は食いつき、邦彦に見せて欲しいといい、宿題も邦彦の家に集まってその時に見せてと言いだしますが、なぜか邦彦は渋ります。長太郎が自分の家なら大丈夫と言い出し、邦彦は渡りに船と言わんばかりに、長太郎の家に集合してやろうと決めます。

弘子ちゃんは走り去っていく邦彦にセルを忘れないでねと声をかけます。帰って来た長太郎はみゆきちゃん達が来るので大はしゃぎ。部屋を片付けようと、部屋で勉強していた一番邪魔な兄の信一郎を片付けてしまいます。

信一郎と長太郎の部屋は一緒。長太郎に片付けられた信一郎を見て、1話で別々の部屋が良かったと言っていた信一郎の気持ちが改めて分かりました。母ちゃんも長太郎の友達がくることで、ケーキを買ってきていて、そのケーキがこれもまたおいしそうで、なかなか。

あばれはっちゃく』シリーズの消え物の食べ物って結構、豊かだと思うんですよね。庶民的ではあるんですけど、少しだけ格上なブルジョワな感じがします。

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『男!あばれはっちゃく』9話より

準備万端で待っていても、みゆきちゃん達が来ないので、長太郎は隣のみゆきちゃんに声をかけます。すると、みゆきちゃんが邦彦君から連絡が来ていないの、邦彦君、幼児があるから取りやめになったと長太郎に伝えます。

がっかりする長太郎。その夜、長太郎は『紅の騎士』をテレビで見ますが、女の子の漫画のどこがナウくて面白いのか、さっぱり理解出来ていません。そこへ父ちゃんが漫画なんて見てといい、セル画について信一郎に聞きます。

どうやら、父ちゃんは会社で佐藤部長からセル画について聞かれ、父ちゃんも佐藤部長もセル画のことを知らず困っているとのこと。佐藤部長は邦彦からセル画のことを聞いて、困って父ちゃんに相談していたとのこと。それを聞いた長太郎は邦彦の話との食い違いに気づき、邦彦が嘘をついたこと知ります。

すると、佐藤部長から電話がかかってきて、急に父ちゃんが長太郎を怒り始めます。父ちゃんが怒ったのは邦彦が長太郎にいじめられて食事もしないという電話を受けたから。長太郎は身に覚えがなく抗議しますが、父ちゃんは長太郎以外なら信じるが、そうもいかないと。

父ちゃん、酷い。邦彦が元気がないのは嘘をついてしまったから。今日は誤魔化したけど明日の学校では誤魔化せないから。それを長太郎のせいにしてしまう邦彦。邦彦は次の日、学校を休んでしまいます。その前に長太郎は邦彦の家に行き、邦彦を訪ねますが、既に邦彦が学校へ行ったことを邦彦の姉、ゆかりさんから確認しています。

しかし、邦彦は学校には来なかった。そこで、長太郎は邦彦がズル休みをしたと休み時間にみゆきちゃん達に話すのですが、それまで一度も休んだことのない邦彦のズル休みをみゆきちゃん達は信じません。

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『男!あばれはっちゃく』9話より

「調べもしないで勝手に思い込んで人のことを悪く言うなんて、嫌な性格ね」

「そうだよ」

「邦彦君に何か事情があるに決まっているじゃない」

「そうよ」

「そうよ」

「いない人の悪口いうなんて、長太郎君、男らしくないわ」

 前回、8話では長太郎と母ちゃんの誤解を敢えて解かなかった邦彦を責めたみゆきちゃんは、今回は邦彦を一方的に悪く言う長太郎を責めます。

みゆきちゃんが長太郎だけにも、邦彦だけにも肩入れしていない公平な目を持っているのが分かります。みゆきちゃんは、一方だけの情報だけを見ることなく、また、一方しか情報がない場合は断定を避けます。自分の母親が相手でも、どちらがいいか悪いかというのを、中立の立場で双方の動きを見て人の噂だけで、人のいい悪いを決めません。

私はこういうみゆきちゃんの公平さがとても好きです。

初代『俺はあばれはっちゃく』のヒトミちゃんも2話で正彦を悪者にした長太郎を叱っていますが、初代2話時点のヒトミちゃんは長太郎と正彦に対するそれぞれの印象からくるイメージで善悪を決めて長太郎を責めているのに対して、みゆきちゃんの方がもっと客観的に見ているように感じました。

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以前にも書きましたが、次第に優しさと公平さが出てきたヒトミちゃんの後を継いで登場した新ヒロインのみゆきちゃんは、2代目『男!あばれはっちゃく』のスタート時点からより公平で優しい性格を持ち合わせたヒロインだったように思います。

邦彦は学校をさぼって、アニメショップに行きセル画を手に入れようとしますが、どこにも売っていなくて、自分でセルを描く事にします。

文房具屋で道具を買って出た時に、買い物帰りのカヨちゃんとぶつかり、そこへ長太郎が来て邦彦はカヨちゃんと長太郎から逃げて、隠れてセル画を描くのですが、うまく描く事が出来ず失敗してしまいます。そして、カヨちゃんに見つかり、長太郎にも見つかってしまいます。

長太郎はみゆきちゃんに邦彦の嘘を言いつけてやろうと、合気道の稽古場にいきますが、その日の合気道は休み。長太郎を追いかけてきたカヨちゃんに長太郎は責められます。

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『男!あばれはっちゃく』9話より

嘘をついた邦彦は確かに悪い、けれども、邦彦は本当に困っている。その困っている人を長太郎君は笑うのかと。長太郎がそれに対して不満な顔をすると、カヨちゃんはそんな長太郎をみゆきちゃんがどう思うかと問いかけます。

長太郎は、学校で言われたみゆきちゃんの言葉を思い出します。この時、長太郎がみゆきちゃんの姿を思い浮かべるのですが、それが学校でのみゆきちゃんの映像回想シーンではなく、別撮りしたスナップ写真風のみゆきちゃんの画像だったのが印象的でした。

それまでの映像の流れで出てこなかった画像、写真を何枚か出して印象に残す手法はモンタージュコラージュと言うと知り合いから教えてもらいました。

この回を監督された山際永三監督は『ウルトラマンタロウ』(1973年)39話「ウルトラ父子おやこ餅つき大作戦」で同じ効果を使われています。

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『男!あばれはっちゃく』9話より

長太郎はみゆきちゃんに軽蔑されたくないと、邦彦を助けられないかというカヨちゃんの言葉に邦彦を助けるためのアイディアを考え出します。

そこで自分の部屋で逆立ちをして、「ひらめけ、ひらめけ」。

長太郎はもらって机の上に置いたセル画の入った封筒を見て、小夜子さんに言われた言葉を思い出し、小夜子さんの仕事場アフレコスタジオに向かいます。

そこで、ファンの人達から追い出された長太郎は、小夜子さんの住んでいるマンションへ。一方、父ちゃんは気持ちの良い日曜日だと体を延ばしていると、母ちゃんがマラソンでもして、その出ているお腹を引っ込めたらどうですか、と。

父ちゃんはジョギングへ長太郎は小夜子さんのマンションに向かい、長太郎はまた助けてお礼でもらった方が良いと小夜子さんのマンション近くを水浸しにして、泥を作って初めて小夜子さんと出会った場面を再現し始めます。

そこにジョギングで来た父ちゃんが合流。父ちゃんが来たとこに、小夜子さんが自動車で帰ってきて、長太郎が作った水溜りに自動車が入って、父ちゃんと長太郎が泥だらけ。雨も降っていないのに、なんで水溜りがと自動車から出てきた小夜子さんに泥だらけの長太郎が迫って、セル画をくれと懇願。

その後ろで泥で滑って転んで、1人でどんどん泥だらけになる父ちゃん。

長太郎の迫力にセル画をくれた小夜子さん。

父ちゃんが小夜子さんに事情を話そうとした時に、長太郎が父ちゃんの足を踏むのをみても、父ちゃんはとんだとばっちり。

戻ってきた父ちゃんは母ちゃんに事情を説明するも、母ちゃんは呆れ気味。泥だらけでお店にいたら、困るからと風呂に入って綺麗にしてと父ちゃんに言います。そこへ、お客としてカヨちゃんに髪の毛をセットしてもらっていたみゆきちゃんが父ちゃんの話から、長太郎が何をしたのか理解した模様。同じように事の成り行きをしているカヨちゃんも長太郎が考えた事を理解します。

この時のみゆきちゃんとカヨちゃんの表情がいいんです。

邦彦は自分の部屋でセル画を描いていましたが、ことごとく失敗。心配したゆかりさんが声をかけますが、邦彦は投げやり。その部屋に「ちょうせん状」と書かれた封筒が窓から見えてます。

それは長太郎からのもの、それを受け取ると『紅の騎士』のセル画入っていました。

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『男!あばれはっちゃく』9話より
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『男!あばれはっちゃく』9話より

翌日、邦彦はそのセル画を持って、学校に行きます。

僕は嘘をつかない、とみんなに自慢して。そこに長太郎が来て、邦彦は不安そうな顔をしますが、長太郎は興味がないと言うと、邦彦は安心した顔をします。

集まって邦彦の話を聞く人達の中にみゆきちゃんがいて、みゆきちゃんは全てを知った状態で邦彦と長太郎のやり取りを聞いているのですが、その時にみゆきちゃんが長太郎の取った態度に対して優しい微笑みをしていて、何も言わずに2人を優しく見ている姿と一瞬、気まずい顔をしてその顔の表情の中に、申し訳ない気持ちと安堵の気持ちが混ざった顔をした邦彦が印象的でした。

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『男!あばれはっちゃく』9話より

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『男!あばれはっちゃく』9話より

 まとめ

以前にも書きましたが、この話は初代『俺はあばれはっちゃく』5話「無抵抗」のセルフリメイクだと私は個人的に思っています。

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確証はありません。見ていて話の共通点を感じるだけです。初代5話「無抵抗」の脚本と監督が2代目9話「あばれアニメだ」と同じ市川靖さんと山際監督であるというのも強く私がセルフリメイクだと思う要因です。

また、この話が原作の「のしイカ大作戦」を下敷きにしているというのも、原作を読んでの私の推測でしかありません。

今回は邦彦がついた見栄と嘘が騒動を引き起こします。長太郎は嘘をついた邦彦をみゆきちゃんに軽蔑させようとしますが、みゆきちゃんの言葉やカヨちゃんの言葉からそれを思いとどまり、邦彦を助ける方向へ動きます。それまで、散々、邦彦にいじめられた長太郎が邦彦を助ける。前回、邦彦が母ちゃんに謝りに行った時もそうですが、長太郎は邦彦を助けるよりもみゆきちゃんに軽蔑されたくない気持ちから邦彦を助けていて、それはちゃんとカヨちゃんにも話しています。

長太郎のええかっこしいだけでなく、素直な欲望からの行動だとしても、その後でも邦彦の嘘に付き合って何も言わないところが、男らしいと私は思いました。みゆきちゃんも全て分かった上で、長太郎のことも邦彦のことも受け入れて許しているのがラストの表情で分かります。

この回はアニメの当時のブームと盛り上がりが分かる回でもあり、これも以前に記事にしていますが、『男!あばれはっちゃく』の放送が始まった1980年の2年前には、アニメ専門誌『アニメージュ』等が創刊していて、その1年前の1977年にアニメブームが起きて2年経った1980年だとすると、アニメが一般的に認知されてきた時代だったなと分かりますし、私自身も子どもの頃に肌でその雰囲気を体験していたのを思い出します。

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アニメのセル画1つで人気者になれる、一目置かれる。尊敬のまなざしで見られる。それも大好きな女の子からというのは、長太郎や邦彦にとっては一大イベントだったように思います。

いいところを見せたい。それで嘘をついて、どうにもならなくなってしまった邦彦、それをいい気味だと思った長太郎も、どちらも自分の気持ちに素直だなって感じました。

初代の5話「無抵抗」の時も原作の「のしイカ大作戦」を読んだ時も思った事ですが、本当の事情を知らない人間って分かる範囲で物事を判断して、好き勝手な事を言って、人の事を勝手にジャッジしてご満悦になる輩が多いんですが、ちゃんと真相を知っている人は知っていて、その人の立場を思いやってくれているんだって、それってとても救いになるなって思いました。

そういう存在がいないと辛過ぎて生きていけない。

邦彦が長太郎からセル画をもらった時に「長太郎のやつ」と言ってほほ笑んだ時に、邦彦の中で長太郎の粋な計らいに気持ちが良くなり、長太郎の存在を受け入れたように思えました。

邦彦は簡単に長太郎を認めていく事はないのですが、少しずつ長太郎の良さを受け入れだしてきたと思います。

また、みゆきちゃんが自然と長太郎がしたことの真相を知って、邦彦を追求しない気持ちよさと優しさを知ってくれたのも心が救われます。

物事の全てを知る事は出来ないけれど、知る事が出来ないのなら、偏った一方的な情報だけで人の善悪を決めつけるなんてやめた方がいい。フラットに人を見る事の大切さが伝わるとても気持ちの良い話だったと思います。

また、個人的にこの話にゲスト出演された米倉小夜子役の松原愛さんがこのブログを訪ねてきてくださり、2、3度コメントでやり取りをさせて頂きましたが、とても温かく心の優しい方で、子どもの頃に見ていたドラマの女優さんと短いながらも交流出来た事がとても嬉しく、それも加わってとても思い出深い話になりました。

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