柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『痛快あばれはっちゃく』42話「走れ!SL」感想

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

1984年1月28日放送・脚本・市川靖さん、監督・松生秀二さん

 Nゲージに対する関心

わらさんから教えて頂いたこの話。DVDで見直して、ああ!と思い出せた話でした。

ああ、この話の結末、知っている。本放送時に見ていたわと。確認したい話の順序で見ていたりもして、この話を見返すのが遅れていて、と言い訳。

今、見返して見ると、この時期というか、この話の信彦が滅茶苦茶、長太郎に対して好意的なんだなって、信彦が見せたブルートレインの写真、Nゲージを買いに長太郎達が信彦に付き合って、模型店へ行くわけですが、まゆみちゃんがNゲージのことを知らずに信彦に尋ねていて、清はこの話のなかで、Nゲージが欲しいけれども小遣いが足りないってことを言ってはいるのですが、長太郎はそんなにNゲージに関して興味(欲しいという感情)は少なくて、この時代は、Nゲージを好きな人は一定数存在しているけれども、『俺はあばれはっちゃく』(1979年2月~1980年3月)、『男!あばれはっちゃく』(1980年3月~1982年3月)の頃の、長太郎も公一も正彦も、長太郎も洋一も邦彦も目を輝かせてNゲージの売り場でそれを嬉しそうに見つめて欲しいという気持ちが溢れている場面と比較すると、少しばかり全体的にその熱が下がっているように感じました。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

ちなみに、この話で登場した「鉄道模型専門 珊瑚模型店」は杉並区に実在した模型店で、1964年~2018年まで54年間営業していました。

看板もお店もそのままに出てくるので、当時も今も鉄道マニアの人にとっては、とても懐かしい風景だと思います。この記事を書くにあたって、珊瑚模型店について調べてみると、ウィキペディアがあり、鉄道ファンの方達がブログで思い出に触れているので、認知度の高いお店だったのだなって思いました。

3年前まで営業していた実績から、鉄道模型が広く浅く一般的に愛されてきた時代からファンのすそ野が広がり、一部マニアだけが愛する時代があったとしても、コアなファンが絶えず生まれ長年愛されている文化の1つだったのだな、と思いました。

長太郎と信彦

模型店を出て、長太郎は福島の親戚から来た桃を食べにこないか、と、皆を誘います。信彦は家に早く帰って、Nゲージを作りたいと渋り、長太郎は信彦は来なくてもいいって言うんですが、信彦は行きたいと。

長太郎の場合、まゆみちゃんさえ来てくれたらいいんだろうけれども、信彦は自分も入れて欲しいと。これは、まゆみちゃんがいるから行きたいというよりは、信彦自身が長太郎の誘いを断りたくないっていうふうに私には感じました。

初代の正彦や2代目の邦彦を見ていると、長太郎とヒトミちゃん、みゆきちゃんが自分の知らないとこで仲良くしているのが嫌で、参加したがる気持ちを感じるのですが、この時の信彦には、それを感じなかったのですね。

それでも、初期の頃の信彦は正彦や邦彦と同じ感情で、長太郎とまゆみちゃんの仲に割って入っていった印象が強くあったのですが、長太郎と出会ってからおよそ1年経ったこの頃には、そうした感情がなくなっていて、長太郎とも普通に友達として長太郎の誘いを受け入れたいという気持ちの方が強いと感じました。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

この信彦の態度は、後々、この話にちゃんと関係していると言うか、繋がっているのですね。お店で品物が少なくないのに気が付いた、店主のおじさんが長太郎達を追いかけてきて、信彦に掴みかかり、バッグの中を調べようとした時に、長太郎は体を張って信彦を庇っています。

長太郎も信彦を冷たくあしらいながらも、信彦のことも大切な友達だと思っているんだなってことがその咄嗟の行動で分かります。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

ここに広田先生が来て、話を聞き、長太郎達が万引きなんてしないことを保証するのですが、長太郎が家に帰って、いつものようにランドセルを投げたら、そこから電車の模型が出てきて、長太郎は一気に皆からの信頼を失ってしまいます。

この時に、信彦が長太郎のことを見損なったって言うんですが、この言葉は長太郎のことを信じていないと言えない言葉だなって思いました。同じようなことをまゆみちゃん、清、マヤ、とし子も言って去っていく。これは、それだけ長太郎が信じられていたことの裏返しなんですよね。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

無実の証明

長太郎は本当に身に覚えがなくて、なんで自分のランドセルに入っていたんだろうって頭を捻るのですが、あんまり悲壮感がないのですね。自分がしていないことははっきりしているから、どうしようって思わずに、なんでこうなったのだろうって考える。明らかに違うのだから、それが証明できれば誤解も解ける、濡れ衣も晴らせるって考えているのかなって思って、長太郎の心の強さというか、能天気さというか、明るさは見ている分には随分と救われました。

それでも、会社で信彦の話を聞いて血相を変えて帰って来た父ちゃんに張り倒されたり、広田先生に叩かれた時はちょっと辛かったです。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

長太郎が広田先生に自分の無実を訴えた時は、広田先生が信じてくれるかどうかハラハラしました。

「分かった」

「分かった、じゃねぇ、信じてくれよ」

「よし、先生はお前を信じよう」

 

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

長太郎は広田先生の助言を受けて、模型店での出来事を思い出すのですが、自分一人の記憶では不安だったのか、より多くの人からの証言を集めて事実を突き止めようとしたのか、あの時、店にいたまゆみちゃん達を呼んで、あの時のことを思い出して欲しいとお願いします。信彦とマヤ、とし子は相手にせずに帰ろうとするのですが、長太郎は土下座をしてお願いします。そんな長太郎の真剣さを見て、まゆみちゃんと清は長太郎に協力、信彦達はまゆみちゃんの言葉にも反応が薄いものの、信彦は犯人を捜すヒントをまゆみちゃんに与えます。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

盗まれた物が鉄道模型だということから、信彦は犯人は鉄道マニアだと思うから、ブルートレインの撮影に来ているかもしれないと、その助言の後で残ったマヤととし子を集めて何やら相談をする信彦。ここで、犯人捜しは自然と二組に分かれていくのです。

長太郎の協力を拒んだ信彦だけども、マヤもとし子も長太郎にこれまで助けられてきたし、長太郎の事は信じている気持ちはちゃんとある。ただ、物的証拠を見ているだけに長太郎の言葉だけでは信じ切ることが出来ない、でも、信じたい。そんな葛藤が信彦やマヤ、とし子にはあったのかなって思いました。

不利な証拠のある人を信じるということは、並大抵なことではない。広田先生もまゆみちゃんも清も長太郎を信じると言葉に出来たのは、どれだけの葛藤と覚悟があったのかがよく分かります。それを言えるだけの心の強さを持っている広田先生とまゆみちゃん、清。

けれども、普通は信彦やマヤ、とし子のような態度になってしまうのが当たり前なんだってことは、本放送から37年も経つと私にも分かるようになってきました。信じるために信彦達は信彦達で行動を起こす。ここに、当初は信彦に意地悪をされていた長太郎がその信彦との信頼関係を築いてきた、約1年近くの関係があるのだなって感じてしんみりとしました。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より


信彦はツンデレ

長太郎、まゆみちゃん、清の3人はブルートレインの撮影をしている人達の中から犯人を捜していくのですが、該当者が見当たらず、原点に戻ろうと珊瑚模型店に赴きます。すると、そこで信彦達と鉢合わせ。

「誤解しないでくれ、僕はNゲージを買いに来たんだからな!」

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

 この言葉を聞いた時に、信彦、お前はツンデレか!って突っ込んでしまいましたよ。

いや、本放送当時(1984年)はそんな「ツンデレ」なんて言葉はなかったと思いますが、最近出てきた言葉ですよね。それも、既にもう定着した言葉で、若い人達(今の10代、20代、30代、40代前半)には、もう生まれる前から子どもの頃から耳馴染みの言葉になった「ツンデレ」。

私が子どもの頃、それこそリアルタイムで『痛快あばれはっちゃく』を視聴していた時代にはなかったと記憶しているツンデレの定番の言葉「勘違いしないで」に近い言葉「誤解しないで」もしっかりあっての信彦の言葉に私は思わず、笑ってしまいました。いや、笑う場面ではないんだけども。これも、時間を経て再見するからこそ生まれる面白さの1つですよね。

ここで、長太郎達は模型店に入って、万引きをする男の子を目撃。彼を追いかけていく途中で模型店の店主のおじさんにもあって、一緒に男の子が逃げた小屋まで来ます。ここで、模型店のおじさんはその万引きをした男の子が自分の子どもであることを確信し、男の子が逃げた小屋にこれまで盗まれた模型で作られたジオラマを見て、長太郎の無実が晴れ、長太郎に頭を下げて謝り、自分の息子、トシゾウを叩いて叱ります。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

万引きを真犯人が店主の子であるというオチは、万引きが犯罪であることを考えると、少しは救いがあるかなって思うのですが、悪い事は悪いので、ちゃんと叱るということは必要なんですよね、それでも怯えて怖がっているトシゾウを見て、長太郎が店主のおじさんの叱りを止めるのは、長太郎自身が殴られる怖さというか、辛さを身をもって知っていて、本人が怯えていることが分かっているからなんだと思いました。

必要な叱りと虐待の境界線

長太郎は父ちゃんや広田先生に叩かれても平気だったりするのは、自分に非がないとはっきりしている時で、これは4代目に限らず初代の長太郎から受け継がれている長太郎の精神なんですが、だからと言って叩かれることが大好きな訳でもなく、悪い事をしてしまったり、自分が非がある時には居たたまれない気持ちになる感情は経験して分かっていて、そこに追い打ちをかけるように叩かれて責められるだけだと萎縮する気持ちも理解しているんじゃないかなって、何よりも一番の被害にあった長太郎がトシゾウを許していて、トシゾウも謝っていて反省したのだから、これ以上の叱責は暴力になってしまう。

この身内であることで大きな事件にはならなかったものの、犯罪は犯罪。叱責は必要だけども、過剰になると暴力、虐待になってしまうという境界線の見極めはとても難しいことだと思います。

最後に店主のおじさんが広田先生に厳しくしてきたのが、逆に良くなかったと口にしますが、ここで親も人間として試行錯誤、悩みながら子どもを育てているんだなって親の子に対する難しさを感じました。

夢を叶えた長太郎と信彦

トシゾウの作ったジオラマ鉄道は電気がないから動かすことが出来ず、それをなんとかしてあげたらとまゆみちゃんに言われた長太郎は、いつものブリッジではっちゃけ。バッテリーを目にして、それでジオラマの電車を動かすことを思いつきます。その後、欲が出たトシゾウは今度は、本物に乗りたいと言い出し、またまたまゆみちゃん、清が長太郎に解決を促すのですが、いくら長太郎でも、それは無理だと頭を抱えた時に、信彦が長太郎に考えがあると囁きます。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より
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『痛快あばれはっちゃく』42話より

信彦が考えたのは、公園等にあるSLにトシゾウをのせて、信彦のコレクションの汽車の音のテープと煙、景色の変わっていく様子をまゆみちゃん達で演出して、汽車に乗っている気分を味わせせること。

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『痛快あばれはっちゃく』42話より

トシゾウは大喜びで、中々、終わらせてくれず、「北海道から沖縄まで走るんだ」と。

あれ、沖縄に鉄道はあったっけかと思ったり。

信彦がこの時に、長太郎に疑ったことを謝っていて、ここで信彦が長太郎のことを本当に大切な友達だと思っているんだなって、改めて分かって、この話の最初の方での長太郎の誘いにも普通に行きたかったんだなってことや、お前はツンデレか!って言葉を言った時も、マヤがそうじゃないのよっての仕草でまゆみちゃんに合図を送っていたのも見ても、長太郎と信彦が仲良くなっていったんだなってしみじみ感じました。

話は少し変わるのですが、5代目長太郎役酒井一圭さん主催で、『あばれはっちゃく』に関わった人達で『あばれはっちゃく同窓会』を2012年に開いたのですね、この時の様子を酒井さんがブログ、SNSで発信したのを見たのですが、この時に信彦役の草間忠宏さんが来ていて、4代目長太郎の坂詰貴之さんも来ていて、坂詰さんが草間さんが参加してくれたことがとても嬉しそうだったというのを知っていたので、この話を見直した時に、多分、少しは役柄を超えて、同じ作品に小学生時代に2年近く取り組んできた中で生まれた絆というのがあるのかもしれないなって、そんなことを思いました。

 かけがえのない大切な思い出、それと築き上げた人間関係は大事な宝物になりますね。