1980年7月26日放送・脚本・安藤豊弘さん、監督・松生秀二さん
カブト虫が好きな男の子
今回はみゆきちゃんのお父さんの友達の子ども、ジュン君が登場します。
最初は愛想の悪いジュン君は、長太郎がカブト虫に詳しいことが分かると長太郎に対して好意を向けていきます。
長太郎も愛想の悪いジュン君に対して、最初は嫌な感情を抱いているようでしたが、みゆきちゃんの知り合いの子であることや、話のきっかけとしてジュン君が熱心に読んでいる絵本に注目して、カブト虫好きということから、自分の持っているカブト虫の知識を引き出して歩み寄っていきます。
最初は互いに警戒したり、興味がなかったり、愛想が悪くても、拒絶するのではなく相手に歩み寄っていく長太郎の柔らかな明るさと優しさが感じられて、とても心が和みます。
お寺でキャンプ
長太郎は、夏休みに山中湖にキャンプに行く予定だった、兄の信一郎がそれを止めて、図書館で勉強をすることになり、信一郎の為に父ちゃんが借りたキャンプ道具一式が余ったのを見て、これを使って合気道で通っているいつものお寺でキャンプをやることを決めます。
長太郎はいつものメンバーに声をかけますが、邦彦と和美ちゃんは乗り気ではなく、みゆきちゃんと洋一は賛成派、邦彦と和美ちゃんは親からの許可をもらってからと返事を渋ります。みゆきちゃんの方は大丈夫かと思いきゃ、みゆきちゃんにはあのママがいて、弘子ちゃんのママともども、長太郎とお寺でキャンプなんて騒動が起こるに違いないと、娘達が参加することに対して、大反対。
それをカヨちゃんがたまたま見て、怒り心頭。桜間家に戻ってきて、その不満を母ちゃんにぶちまけます。長太郎もそれを聞きながらも平気な様子。この時に長太郎が林檎をかじっていくのですが、この場面を見ていたら、『俺はあばれはっちゃく』18話の台所で長太郎、てるほ、母ちゃんがいる場面を思い出しました。なんか、こうカヨちゃんって、長太郎の母方の従姉なんですが、初代のてるほと被る部分があるんですよね。
2代目ではてるほの役割をカヨちゃんと信一郎に分けたなって、私はずっと思っているんですが、皆さんはどうですか?
反対していたみゆきちゃんのママと弘子ちゃんのママも、その後で、和美ちゃんが寺山先生もキャンプに参加するという情報を持ってくると、態度を豹変。もう、このあたりのみゆきちゃんのママと弘子ちゃんのママの態度の変わりようが、見ていて面白い。
寺山先生の参加のお陰で長太郎は洋一だけでなく、いつものメンバーとジュン君でキャンプをすることになるのですが、このお陰でキャンプが滅茶滅茶になってしまうのですね。なにせ、寺山先生目当てでみゆきちゃんのママ、弘子ちゃんのママ、和美ちゃんのママ達が乱入してくるのですから。
もう、キャンプの意味が分かっていないというか、飯盒炊飯も立てたテントも関係なし。それは、テントの数が少ないからお寺の本堂で寝るメンバーがいたとしても、キャンプというよりは食料も持って来て、ただのお泊り会にしてしまうママ達のパワー。寺山先生の人気ぶりが分かる一方で、長太郎が可哀想。
また、長太郎がキャンプの前に寺山先生の夕食のおかずが出来合いのコロッケだと指摘する場面がその前にあるものだから、この豪華な食事の場面は独身で夏休みに入った寺山先生にとっては、有難かったのかなって思ったりして、こう大人になって見直すと、みゆきちゃんのママ達の勢いの凄さもあったかもしれないけれども、寺山先生の食卓の事情も理解出来て、長太郎の悔しさだけでなく、寺山先生の気まずさもなんとなく分かって、より面白く、身に沁みてきます。
なんとか逃げて長太郎に謝って去っていく寺山先生。みゆきちゃんのママ達にキャンプを台無しにされた長太郎は、唯一、長太郎のところに来て、飯盒炊飯で作ったご飯を食べ、長太郎達が作った味噌汁を飲んでくれたジュン君と一緒にオバケになって、みゆきちゃんのママ達を驚かします。
事件が起きて
朝になって長太郎とジュン君以外が掃除をしているのに、長太郎がいない。洋一がテントで寝ていると思って、テントを覗くと長太郎がいない。どこに行ったのか、無責任と和美ちゃん達がいう中で、洋一が長太郎はカブト虫を探しにいったのだと思いつき、キャンプの初日にジュン君にカブト虫がいる場所を教えていたところへ行って、長太郎達を見つけます。
そこで木に登ってカブト虫を探していたジュンが足を滑らせて落ちて怪我をする場面に遭遇、それを見て和美ちゃんと邦彦はキャンプを止めると帰って行ってしまいます。
みゆきちゃんのママもジュン君が怪我をしたということで、桜間家に怒鳴り込んできます。
面白いなって思うのは、長太郎とジュン君に驚かされたことでは怒鳴り込んでなくて、みゆきちゃんのママが怒鳴り込んだのは、ジュン君が怪我をしたからなんですよね。確かに、預かっていた子どもが怪我をしたら、信頼して預けたジュン君の父親に対して合わす顔がなくなるし、怒鳴り込みたくもなるんだろうなって。自分が驚かされたことは、ジュン君もいたからなんでしょうけれども、桜間家に怒鳴り込んでくるものではないと弁えているんだろうなって感じました。
闇雲に長太郎を悪者にしているようでいて、長太郎が原因で起きた腹が立ったこと全てに対して桜間家に文句を言っているのではない、ちゃんと区別をつけているのを見て、みゆきちゃんのママは意外にも、感情的に怒る人ではないんだなって感じました。この辺の怒りの区別というか、怒る対象の区別が出来ている人って大人でも案外と少ないんだなって大人になってから分かったので、みゆきちゃんのママって、実は私が現実で子どもの頃から大人になるまでに出会ってきた大人の人よりも大人なんだなって思いました。
それでも、みゆきちゃんのパパがみゆきちゃんのママも宥めていて、この夫婦のバランスの絶妙さを感じます。こういう強気で勝ち気、怪我をしたのは、長太郎だけのせいではない。というより、今回は長太郎は悪くないのだけども、こう責任を感じて誰かのせいにしてしまう心理と言うか、最初はキャンプに参加するのに反対していたのにって気持ちもあって、また、人から頼まれて預かったという責任感もあり、はたまた、話の憎まれ役をはたす為にヒステリックに怒鳴り込んでくるみゆきちゃんのママ。
損な役回りだなって感じるのですが、こう愛嬌があって憎めないところが演じる藤江リカさんのお人柄なんだなって思ったりするのです。
長太郎お兄ちゃんのために!
長太郎を悪く言われて一番、怒ったのがジュン君。
長太郎の名誉を挽回する為に、ジュン君は怪我をした足を引きずって、長太郎が言った場所にカブト虫がいることを証明する為に、カブト虫を捕りに出かけます。
長太郎に為に、しっかりみゆきちゃんのママに反論し、かつ怪我をしながらもカブト虫を捕りに行ったジュン君はカブト虫が好きだからの理由だけでなく、自分と向き合ってカブト虫のことを教えてくれて、一緒にカブト虫を探してくれた長太郎のことが好きだからこそ、長太郎の汚名を晴らしたい一心でカブト虫を探しに行ったのだと思うと、胸が熱くなりました。
誰の手も借りずに一人で行く姿、自分に好意を向けてくれた相手に対して恩を返したいという心意気。
こうした優しい気持ちの交流。人の好意を好意で返す姿は、『あばれはっちゃく』シリーズの話の中で多く書かれてきて、やっぱり、いい物だなって常に思います。
等身大の同じ子どもが主役だったからこそ
ジュン君が見つかって、カブト虫も捕れて一件落着の後で、みんなで食事。それを陰で見ているみゆきちゃんのママ。
その所在なさげな感じがとても可愛い。そして、ママを気遣うみゆきちゃんの優しさが心憎いです。こういう可愛い面があるから、みゆきちゃんのママは憎めないのですね。
ジュン君がいなくなったと慌てて助けを求める場面も、変なプライドがなく、預かった責任感を強く持っている人なんだなってことが分かります。
長太郎が幸せだなって思うのは、寺山先生だけでなく、自分の悔しい気持ちを受け止めてくれる大人がいることですね。合気道の先生で、寺の住職の存在、みゆきちゃんのパパ、従妹のカヨちゃんの存在。もちろん、母ちゃんもいるし、長太郎が悪い事をすると怒る父ちゃんだって、長太郎の味方だし、長太郎に呆れることが多い信一郎も基本的には長太郎を信じている。『男!あばれはっちゃく』の3話を見ると、信一郎の長太郎への思いがよく分かります。
大人や子ども達の中で敵もいるけども、理解者、味方もちゃんといる。世の中、敵だけでもなく、味方だけでもないことをちゃんと書いている児童向けドラマの存在はとても大きかったと思います。それも、私が生きる現実と殆ど変わらない世界で見せてくれたことに私はとても感謝しています。
特殊な力がなくても、自分と同じ等身大の子ども達が互いに信頼を得ていく姿、信頼を失ってしまう出来事を通して、再び信頼を得ていく姿に自分を重ね、励まされてきたことがどれだけ心の支えになっていたか、40年以上経っても私が『あばれはっちゃく』シリーズが好きな理由の一つがここにあります。
小ネタ
最後に小ネタですが、長太郎が悔しい気持ちを和尚さんにぶつけていた時に、洋一がその様子を見ているのですが、この時の洋一の動きが面白いのです。なんだか、投げ飛ばされる長太郎を見て痛がっているという。
人が痛い思いをしているのを見て、自分はなんでもないのに、痛く感じるってことが私にはあるので、洋一の動きも面白いと感じながらも、その動き分かるわって思って見てました。
次回予告
これまでしなかったのですが、次回はコイキングさんから頂いたコメントに関連して『俺はあばれはっちゃく』17話のカラスウリに関して少しと、後、わらさんのコメントを読んで『痛快あばれはっちゃく』42話を見たので、その感想というか、ツッコミを書きたいなって思っています。あくまで予定です。