柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『男!あばれはっちゃく』80話『プロはきびしい』感想

『男!あばれはっちゃく』80話より

1981年10月17日放送・脚本・安藤豊弘さん・松生秀二監督

カヨちゃんの試験

今回はカヨちゃんが理容師の試験を受ける話。筆記試験が受かって後は実施試験のみ。長太郎はカヨちゃんの合格を信じていますが、母ちゃんが留守の時にお客としてきた克彦は母ちゃんの代わりに自分を散髪したカヨちゃんの腕に疑問を抱き、カヨちゃんは合格すると断言する長太郎に無理だと言って喧嘩になります。

長太郎と克彦はカヨちゃんの合格をかけて、カヨちゃんが合格したら克彦が逆立ちして運動場10周、不合格だったら長太郎が逆立ちして10周でも100周でもする約束をします。長太郎は克彦との賭けもありますが、カヨちゃんに立派な理容師になって欲しいと、絵馬を作ったり、いろいろな人に声をかけてカヨちゃんの実施試験の練習台になってもらったりして、カヨちゃんを応援します。

一方で、カヨちゃんを厳しく指導しながらもカヨちゃんが試験を受けることに対しては少し渋い顔をしているのが母ちゃんです。カヨちゃんは理容師として働いている高校の先輩からのアドバイスで理容師の試験を受けることにしたのですが、それに対して母ちゃんは不満を持っている様子。ただ、試験を受けるからとしっかりと厳しくカヨちゃんを指導。その厳しさにカヨちゃん自身が不満な表情をしたり、思い悩んだりします。

それでもカヨちゃんは長太郎の応援もあって、一生懸命に実施試験に向けて努力を重ねていきます。みゆきちゃんから借りたみゆきちゃんのママの鬘をカヨちゃんのカットの練習に使ってしまって、みゆきちゃんを悲しませてしまい、父ちゃんに怒られてしまいましたが、カヨちゃんは試験当日まで努力を重ねました。

それでも、自分の未熟な腕を母ちゃんに指摘されて指導されてきたカヨちゃんは自分の腕に自信が持てなくて、試験会場前で佇んでいました。長太郎はそんなカヨちゃんを励まし、お守りを渡して試験を受けさせます。

努力をしても神に祈っても

今回の話ですごいなって思うのは、あ、こうなるからこんな展開になるのか。あ、そうなるところがダメだったからダメになるのかなって思ったら、そうじゃなかった!と思ったら、それでもないのかという展開が続きながらも、ちゃんと話が着地していることです。さらには、長太郎と克彦の賭けに対する結果もしっかりと話のオチとして生かされているのも素晴らしかったです。

カヨちゃんが母ちゃんの厳しい指導の下で自信をなくして落ち込むも、長太郎が連れてきたカットのモデルの子ども達による練習、風船を使った髭剃りの練習、みゆきちゃんのママの鬘でのカット練習などを重ねて努力をし、長太郎もカヨちゃんの為にお祈りをして試験に挑む。

試験当日にカヨちゃんに渡すお守りを試験会場に行く前のカヨちゃんに渡し損ねた長太郎が試験会場に到着して間に合わなかったと思ったら、試験会場のそばで試験を受けるかどうか迷っているカヨちゃんを見つけてお守りを渡すことが出来たというように話が流れの中で、自信をなくしてダメかと思っても努力を続けて、神様に祈り、お守りを渡せなかったことで試験は大丈夫かと心配になるけれども、ちゃんとお守りを渡すことが出来て、いまいち自信がないカヨちゃんを長太郎が励ますことで、カヨちゃんが試験を受ける自信を取り戻すというように、フラグが立っては消え、消えては新しいフラグが立ち上がっています。

そのフラグもちゃんと時系列の流れがあって、カヨちゃんの感情と行動とリンクしているので、自然に受け入れることが出来ます。そこに無理がないんですね。この話はちゃんとカヨちゃんが試験に受かるための努力をしていて、その上で神様にお祈りをして力を貸してもらっている。何もしないで祈るだけではないんです。

それでも、どんなに頑張っても、どんなに努力をしても、どんなに祈っても、どんなに応援されても、試験結果というのはその時点での実力で評価をされてしまうという厳しい現実を逃げることなく捉えているんです。ここまで、頑張る過程を見せながら、そして児童が視聴対象である作品でありながら、安易な現実ではない厳しい現実を見せるこの話は嘘や誤魔化しをすることなく現実を子どもに見せた素晴らしい話だと思いました。

寺山先生と母ちゃんの言葉

今回の話の中で寺山先生と母ちゃんの言葉が胸に刺さりました。まず、寺山先生がカヨちゃんの散髪のモデルになりながら、試験が学校を卒業してもあることに嘆く長太郎に対していった言葉。

「何、言ってる。お前たちはこれから、いろんな試験の関門を何度も何度も潜り抜けていかないとならないんだぞ」

そして、試験が終わりその結果を受けて母ちゃんがカヨちゃんに言った言葉です。

「今度のことは、いい経験よ。決して無駄にならないわ」

母ちゃんの言葉にはその前に、なぜカヨちゃんが試験を受けることに対して、好意的ではなかったかの理由が語られていて、それでいながらどうしてカヨちゃんが試験を受けることを止めなかったのかという母ちゃんの気持ちや考えが語られています。

その母ちゃんの言葉から、カヨちゃんがドラマでは見せていないところでも、筆記試験を合格できるまでどれだけ努力をしていたかが分かって、カヨちゃんがドラマの中で見る以上に努力をしていたことから、こんなに真面目に努力しても報われない結果が現実にはあるんだという厳しさを見せながらも、「決して無駄にはならないわ」という母ちゃんの言葉が救いになっていて、それがいいなって思いました。

努力をしても結果が思わしくないのなら、その努力は全て無駄というのではなく、ちゃんと経験として自身の実力となって身について、いつかちゃんと花を咲かすことが出来るというメッセージを私はこの話から感じました。

寺山先生の言葉も、今回のカヨちゃんの理容師の試験だけでなく、人間が生きていく中で、何度も何度もいろんな関門、試練があってそれを潜り抜けていかないといけないという人生の大変さ、厳しさを教えてくれる言葉で、大人になっていろいろな試験以外の試練や関門を潜り抜けたり、時には逃げ出してしまった私には耳の痛い話であると同時に、世間は甘くないという現実の厳しさをちゃんと教えてくれていたんだなって、分かって、それが子どもを騙さない大人の誠実さに感じて、いいなって思いました。

長太郎と克彦

長太郎と克彦の賭けも長太郎が逃げなかったのも良かったです。マリ子ちゃんやみゆきちゃん達に責められたせいでもありましが、長太郎が誤魔化したり、逃げたりしなかったのは良かったですし、それでも最後の最後で克彦に一矢報いた形になった結果が面白くて笑いました。

今回の克彦も憎まれ役でしたが、克彦がカヨちゃんを非難する理由も、実際に自分がカヨちゃんに散髪をしてもらって、嫌な気分にさせられたからという理由がちゃんとあって、克彦なりの正当な評価基準がちゃんとあった上でのことだったので、克彦に対しての嫌悪感がありませんでした。克彦には克彦なりの正義がちゃんとあるというのも、しっかりあったのも、この話の良さだったと私は思います。