1980年9月27日放送・脚本・安藤豊弘さん・松生秀二監督
微妙な思い込みのずらし
今回の話は、いつも見ていて刷り込まれている、このドラマ『あばれはっちゃく』シリーズの定番、この2代目ならではでの定番を微妙にずらしていることに目が行きました。いつもの通りの定番は、勿論あるのですが、少しずついつもの定番とずれていると私は感じました。
この話は長太郎と父ちゃんが釣り堀で釣りをしている場面から始まります。このブログで何度か出していますが、私は父ちゃんは釣り好きだと思っています。なので、長太郎が父ちゃんと釣りをしている場面から始まるのは、すんなり入ってくるのですが、長太郎が張り切って魚を釣ろうとすると、父ちゃんが釣った魚は買取をしないといけないから、そんなに釣るなといい、また、長太郎が竿に魚がかかると、「ばらせ」と言っていて、それが釣り好きの父ちゃんにしては珍しいなと感じました。
それでも釣りには来ているから、釣り自体は好きなんだろうな、ただ買取のお金が惜しいのかなってと、釣り好きなのに、そんなに魚を釣るなという父ちゃんの矛盾に感じる部分を私は勝手に解消しました。なんというか、こうした、これまで作品を見てきて、そうだと思い込んでいたことに対して、あれ?って場面が今回の話には、これだけでなく、ちょくちょくあって、その度に、その矛盾を打ち消す要素が入ってくるので、ま、いつもならそうだろうけど、今回は、ちょっといつもとは違うからな、と納得出来て話を受け入れることが出来ました。
この後に、長太郎が釣った魚が勢い余って、近くにいた女の子に当たって、女の子が釣り堀に落ちてしまい、長太郎がすぐに駆け寄って謝るのですが、女の子の祖父が長太郎に腹を立てて、今度は長太郎を釣り堀に落としてしまいます。それを見ていた父ちゃんが駆け寄って、その女の子の祖父を怒鳴ります。いつもなら、女の子が落ちた時点で父ちゃんが長太郎を叩いて謝る流れなのかなって思って見ていたのですが、父ちゃんがどなったのは長太郎ではなく、女の子の祖父の方で、そこも見ていて、いつもとは違うなという感想を持ちました。
けれども、今回は父ちゃんが現場にいて、一部始終を見ていましたから、長太郎の好意が不可抗力であったこと、どちらが悪いかということが分かっていたから、父ちゃんはすぐに駆け寄って、謝ったのにも関わらず、長太郎を釣り堀に落とした女の子の祖父の方を怒鳴ったのだろうなということで、すぐに納得が出来ました。
女の子の祖父が怒ったのは、女の子が杖がないと立つことも歩くことも出来ないからで、それなりの理由はあったのですが、長太郎達がそれを事前に知っているわけもなく、釣り堀は浅くて、実際、女の子は驚きパニックになりながらも、意外と早くに立てたので、長太郎を釣り堀に突き落とすまでするのは、やりすぎだったなって感じましたし、父ちゃんもそう判断したから、女の子の祖父に怒鳴ったのだと思いました。
見事だなって思うのは、この一連の流れの中でいつもと違う行動を、私が知っている父ちゃんだったら、そう判断するだろうなという考えと行動で示して納得させているところと、ここで、今回の話の鍵になる要素をちゃんと入れ込んでいるところです。女の子杖がないと立ってない女の子が、杖なしで比較的早く立ち上がっていたことは、後々になって、この騒動から始まった話の問題を解決する鍵になっています。さらに、ここでの女の子の祖父の態度がこの話の最後で笑いに繋がっています。少なくとも、この後に続く話の3つの要素をこの一連の流れの中で無理なく見せているのが素晴らしいです。
世間は狭い
この釣り堀での出来事はここで終わることなく、次の展開に繋がっていきます。世間って本当に狭いですよね。マツコシデパートで父ちゃん達の会社の仕事があり、その依頼主の社長が釣り堀で喧嘩をした相手、松山氏。互いに社長室で相手を見た時の父ちゃんと松山さんの表情の変化は二人の内面を如実に表していました。そんな二人の件を知らない佐藤部長達の笑顔が見ていて辛い。
父ちゃんに対して腹を立てている松山さんは、父ちゃんを仕事から外すようにと命令。家に帰ってきた父ちゃんはヤケ酒です。最初は父ちゃんだけがヤケ酒している姿しかなかったので、気づかなかったのですが、佐藤部長もそこにいるのです。
仕事で相手の社長を怒らせたのなら、佐藤部長は父ちゃんに怒るのかと思えば、佐藤部長は既にここで事情を知っているらしく、父ちゃんに松山社長になんとか自分が取り持つことを話していて、ここでも、なんかいつもと違うような感じがするけど、ちゃんと事情を話せば、佐藤部長も松山社長が大人げないことが分かっていて、かつ、父ちゃんの仕事での優秀さを理解しているから、こうして父ちゃんの味方でいてくれているんだなって思いました。
佐藤部長は、7話「逃げるな父ちゃん」で、仕事において父ちゃんの存在がどれだけ大事かということを身をもって知っているので、この父ちゃんの味方になってくれる流れも、スッと腑に落ちたのです。元々、父ちゃんを今の会社に引き抜いたのは佐藤部長で、やはり父ちゃんの仕事の出来に一目置いているのだと分かりますし、自分が間違っていることを素直に認め、物事の良い悪いを見極める目はちゃんと持ち合わせている人なんだということが、今回の父ちゃんに対する対応からも分かります。
社長室を出た後に、怒りでいっぱいの父ちゃんから話を聞いて、おそらくやけっぱちになった父ちゃんを宥めながら、佐藤部長が桜間家に送り届け、さらにヤケ酒をする父ちゃんを宥めていたのではないかと想像が出来て、佐藤部長の優しさを感じることが出来ます。父ちゃんと佐藤部長が桜間家に帰ってくる間の出来事は、ドラマでは描かれていませんが、そうした空白を埋めるだけの情報が、これまでのドラマの人間関係、今回の話の中で描かれているので、そういう場面がなくても想像することが私は出来ました。
(「できるのです」と断言してしまうと、人によってはドラマにない場面なんて想像も出来ないし、ないのに嘘を書いていると思われるので、「私は想像が出来た」と書きました。これはドラマを見ての私個人が感じた感想文ですから)
ここでも、やはり、いつもの定番の形を微妙にずらしながら、これまでの『男!あばれはっちゃく』で描かれてきた人物関係と人物の性格の整合性が取れています。『あばれはっちゃく』は1話完結で複数人の脚本家、監督がいますが、作品を通しての流れ、話の繋がりというのがあり、それを生かしながら次の話に繋げていて、蓄積されていくので、見ていて深まっていく人の絆がジワジワと心に沁みこんでいきます。
佐藤部長が見せた父ちゃんに対する優しさもこの話の肝に繋がっていて、私は、今回、この肝の部分に触れた時に涙が出ました。人の恩義に対する思い、それに報いる心。人を大切にする気持ちの温かさ、それは時代遅れで裏切られると心に深い傷を負い、自分自身が損をするものではあるのですが、裏切らない相手なら、返した恩は倍になって戻ってきて、さらに恩が循環していくのではないか、とそんなことを思いました。
初代長太郎役の吉田友紀さんが『俺はあばれはっちゃく』のDVDBOX付属のブックレットで長太郎について、「義理人情」だということを話されていましたが、確かに『あばれはっちゃく』には、長太郎に限らず、父ちゃんもまた義理人情がある人なんだなって、改めて思いました。
子ども同士の恋愛関係
佐藤部長だけでなく、ヤケ酒する父ちゃんを見守っていたのは、母ちゃんと長太郎。長太郎は怒って、松山社長の家に怒鳴り込んでいきます。まだ、帰宅していないということで玄関先で待つことに、するとすぐに車で松山社長が戻ってきて、長太郎は松山社長に怒鳴ります。すると、奥には松山社長の孫娘エリコの姿が見えます。
ここでエリコが松山社長が長太郎に怒鳴られ、その内容がエリコ自身にも関係していることをエリコが目撃し耳にしたことを視聴者に見せたことで、エリコが長太郎のとこへ文句を言いに行く理由をつけています。さらに1日経過して、学校の校庭で長太郎が寺山先生といつものメンバープラス一人とボール遊びをしていて、蟻を見つけたことで、その後の展開とサブタイトルの意味を回収しています。ここで長太郎が蟻を見つけて、寺山先生が教える言葉が、後の長太郎とエリコの間で起きる出来事の励ましへと繋がっています。
下校時間になり、長太郎がいつものメンバーと下校していると、そこに1台の車が。そこから登場するエリコ。エリコに促されて長太郎は邦彦達に別れを告げて車に乗り込みます。
ここで、いつもと違うと感じたのは、みゆきちゃんの態度でした。エリコと長太郎の関係を怪しむ洋一と和美ちゃん、それに乗ってくる邦彦と弘子ちゃんに、ムキになって長太郎とエリコの関係を否定するみゆきちゃんの姿は、これまでの6人の人間関係を見ていると少し奇妙に感じました。
長太郎がみゆきちゃん大好きなのは周知の事実なのですが、みゆきちゃんが長太郎が他の女の子と仲良くしているとヤキモチを焼くというのは、珍しくその反応を他の4人が冷やかすというのは、なんだか奇妙で不思議だなって思いました。
後に邦彦がみゆきちゃんに対して恋心を持っていて、長太郎に張り合っていたことが判明していきますが、それと合わせても、ここで邦彦もみゆきちゃんの冷やかしに参加していることで、邦彦の中ではこの時点でみゆきちゃんは長太郎を好きなんだっていう確信があったのかなって感じたりして、そうした長太郎達の恋愛感情を見たような気がしました。
『俺はあばれはっちゃく』『男!あばれはっちゃく』で監督を務めた山際監督が言っていましたが、『あばれはっちゃく』は教室に子ども同士の恋愛を持ち込んだのが新しかったとありましたが、当時の子どもからすると、既に子ども間の恋愛は存在していて、男女の仲を冷やかすというのはあったので、そういう面も子どもが『あばれはっちゃく』の話に関心を持った一つの一面だったと思います。
大人から見ると、マセたガキなんだったんだなって思いますし、今、大人になった私も今の子ども達の恋愛関係を見れば、子どもなのにねって思ってしまうところがあって、でも、『あばれはっちゃく』を見ている間は自分の感性も子ども時代に戻っているから、子ども同士の恋愛関係にハラハラしていて、大人も子どもも関係なくなっている自分の感情が面白いなって感じています。
で、話をちょっと戻して、この5人の態度を見ていて、初代の正彦の立場に位置する邦彦が女の子達の憧れ、恋愛対象にはなっていなくて、あくまでも友人の範囲での好きという部分に収まっているんだなっていう印象を受けました。
初代の正彦は特に明子から恋愛感情に近い感情を持たれていて、小百合も正彦は憧れの男の子という態度で、ドラマでは、はとこで親戚関係にある恵子ちゃんも正彦は素敵な男の子という位置づけで見ていたのが、邦彦に対しては、和美ちゃんも弘子ちゃんにもそれがなく、この女の子にモテていた正彦の部分は、邦彦の後に登場する克彦の方が受け継いでいたな、克彦へのみゆきちゃんの態度が長太郎の恋心をかき乱していったなって思い出しました。
長太郎とエリコの関係を揶揄して、みゆきちゃんを少しからかう4人、面白くない気持ちを顔に出して、長太郎とエリコのやり取りを見て、4人の言葉に切れるみゆきちゃんを見て、この時点での長太郎達6人の恋愛に関する成熟度というか、気になる相手、好きな相手への自分の気持ちの処理の仕方の差を感じて、なかなか小学生の恋愛も難しかったんだなってことを思いました。
長太郎とエリコ
エリコは単なるお嬢様ではなく、かなり気の強い性格で長太郎と張り合います。また、エリコが足が悪くなった理由や祖父松山さんに対する思いやりや優しさも分かります。ここで長太郎が釣り堀でエリコが杖なしで立てたことを指摘して、エリコが自力で立って歩ける可能性があることや蟻の姿を見せることで、エリコが歩く訓練を長太郎と一緒に頑張ることへ繋がっていきます。
ここで釣り堀での出来事、休み時間に蟻を見て寺山先生が話してくれたことの伏線が生かされてくるのです。また、足が不自由になったエリコは車で送り迎えをされていて、その履いている靴は長太郎の靴に比べて綺麗なのですが、少しだけですが最後にはその靴が汚れているのでエリコが頑張ったことが靴からも分かるようになっています。それだけではなく、公園の遊具を使っての訓練の姿もあって、エリコの頑張りは画面から伝わっていました。
自分の大切な人の為に
『あばれはっちゃく』を見ていると、自分にとって大切な人が不当な扱いを受けたり、悪者にされると、それに対して激しく怒って行動を起こすことが多いなって感じます。今回の話でも、長太郎が父ちゃんを不当に仕事から外した松山社長に怒り、松山社長を悪者にした長太郎にエリコが怒って行動に起こし、それから新たな展開が生まれています。
また、自分の利益を優先するよりも、恩義のある人、大切な人への感謝を優先しているのも感じます。今回は、父ちゃんが松山社長と和解して、マツコシデパートにヘッドハンティングされるのですが、大工の父ちゃんを見染めて、今の会社に呼んでくれた佐藤部長を差し置いて、マツコシデパートに行くことは出来ないと父ちゃんはマツコシデパートの宣伝部長の話を断ることを家族に話します。
父ちゃんの大出世に大喜びだった桜間家のみんなは父ちゃんの古い考えを否定します。確かにカヨちゃん、信一郎、母ちゃんのいうことも分かるのですが、私は父ちゃんのその考え方、生き方が好きだし、父ちゃんと佐藤部長の関係を思い起こしたり、父子家庭で二人の子ども、邦彦とゆかりさんを育てている佐藤部長の姿、今回ヤケ酒の父ちゃんを温かく見守ってくれていた佐藤部長の優しさを思い出すと、父ちゃんの佐藤部長に対する恩義の深さに泣けてしまって、おいおいと泣いてしまいました。
父ちゃんに腹を立てて、仕事を外した松山社長が父ちゃんをヘッドハンティングした理由やその後の対応の時に口にした言葉は、話の前半での松山社長の大人げない態度を見ていると、その口が言うのか!って笑いに繋がっていて、私は泣いた後に笑ってしまって感情が忙しかったです。
王道でいい話
話の大筋の流れや結末はある程度、予想がついて予想通りの着地になった話でしたが、微妙な定番のズレ、それでいながら、そのズレに違和感を感じさせない展開とそれまで築いてきた人間関係、これまでの人間関係が見えてきて、今後の関係性がどうなっていうのだろうという気持ちを持たせくれて、それでいて、今回のメインの話は本当に素直な王道の話で、私は『アルプスの少女ハイジ』(1974年フジテレビ・ズイヨー)のクララを思い出したのですけれども、いい話だったなって思いました。
この話も前回(26話「救え!聖徳太子」)と同じ安藤豊弘さん、松生秀二監督の話で、前回は不満を書いてしまった私ですが、本来のお二人はこちらが本当で、まさにこれこそ!『あばれはっちゃく』!これこそ、『あばれはっちゃく』の良さを出した話の一つだなって改めて思いました。