柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『男!あばれはっちゃく』29話「壊せ!百点マシーン」感想

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『男!あばれはっちゃく』29話より

1980年10月11日放送・脚本・三宅直子さん・川島啓志監督

三宅直子さんの本

今回の脚本は三宅直子さん。三宅直子さんは『あばれはっちゃく』シリーズの脚本家の中で唯一の女性。これまで、このブログで書いてきましたが、女性ならではの視点を『あばれはっちゃく』シリーズに持ち込み、主に母ちゃんを主役にした母ちゃんの視点で『あばれはっちゃく』の世界を生み出してくれました。

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私は、さとうさんが以前にコメントで教えてくれた三宅直子さんが昨年出された本『好きなことを見つける魂のアンテナ術エプロン作家83歳㊙逆転記』を買って読んでいるのですが、それを読みながら、このブログで書いてきたことはそんなに外れでもなかったんだなっていう感想を持ちました。

私はこの三宅さんの本を読んで救われた部分があって、泣いてしまったのですが、それを含めて本の感想は、いずれまたの機会に書きたいと思います。

あばれはっちゃく』に関連している本の部分を一部紹介すると、三宅直子さんは母ちゃん役の久里千春さんと年齢が近く、三宅さんと久里さんの娘さんが同じ学校でPTA仲間だったそうです。

また、三宅さんの娘さんがアニメじゃないケンちゃんみたいなお話も書いてという要望から、三宅さんの脚本家の師匠にあたる石森史郎さんに相談して、ケンちゃんシリーズを書き、同じ国際放映の『あばれはっちゃく』も書くことになった経緯、ケンちゃんシリーズの杉山プロデューサーから、お母さんなのだからその視点で書いたらというアドバイスが『あばれはっちゃく』にも影響していたことなどが書いてあり、やっぱり三宅さんの回で母ちゃんが主役の話が多いのは、やっぱりそうだったんだ!という答え合わせが出来たという気持ちになりました。

児童ドラマを書くことになったのが娘さんの要望であったこと、久里千春さんとPTA仲間であったことは新たな発見で、そんなことがあったのかと驚き、また『あばれはっちゃく』の話を書く苦労も書かれていて、これだけの要素を正味25分の中に詰め込みながら、楽しい話にしなければいけないなんて、しかも、それを実現させているプロの力の凄さを感じました。

三者三様の心配・控えめながらも目立つ母ちゃん

そんな中で、今回、三宅直子さんの脚本「壊せ!百点マシーン」を見ました。その前にも『俺はあばれはっちゃく』29話「燃えろ!ママゴン」と三宅さんの話を見返していたので、今回は改めて三宅直子という脚本家の魅力というか、面白さ、可笑しさを味わいながら、「壊せ!百点マシーン」を見たのです。

今回の主役は珍しくテストで80点を取ってしまった信一郎だと予告を見た段階では思っていたのですが、実際に改めて見てみると、主役は百点を取れなくて落ち込んでいる信一郎を心配する周囲の方だったなって思いました。特に父ちゃんと母ちゃん。父ちゃんも母ちゃんも長太郎や3話から久々に登場した千春さんよりは目立ってはいませんでしたし、父ちゃんよりは母ちゃんは目立っていなかったのですが、その目立っていなかった母ちゃんの印象が強く残る話でした。

テストで80点を取ってしまった信一郎はクラスメイトの男子3人から馬鹿にされ、千春さんに心配されます。信一郎の落ち込みは酷く、うるさい長太郎に怒鳴り、信一郎可愛さに父ちゃんは長太郎を追い出し、長太郎も売り言葉に買い言葉で家を出ていき、カヨちゃんが追いかけ、その途中でお寺の住職合気道道場の熊田さんに会って長太郎は寺に下宿することに。

信一郎の落ち込みやノイローゼを特に千春さん、父ちゃん、母ちゃんは心配することになるのですが、それぞれに違う形で信一郎を救う方法や心配の仕方がそれぞれの立場や信一郎の関係で違っているのが、個性が出ていて面白く感じました。長太郎は長太郎でそんなに心配はしていなくて、信一郎が勉強を忘れたら自分の方にとばっちりが来ないという打算的な考えで勉強に囚われすぎな信一郎を助けるというか、千春さんやみゆきちゃんの言葉に動いていきます。

長太郎の結構、無茶でおかしいアイディアに千春さんや熊田住職が真面目に協力するのが可笑しく、それを目の当たりにして、まともな突っ込みを入れてくる父ちゃんが面白いのですが、その父ちゃんも信一郎可愛さのあまりに行き過ぎた親バカを発揮しているので、さらに笑いを誘っています。

長太郎は千春さんの依頼で信一郎がノイローゼになってしまっているから、勉強を忘れさせて欲しい(多分、一時的に)ということで、お寺に連れていき、『伊豆の踊子』を読ませて、その世界観の中に誘うことで、現実を忘れさせようとします。この時に千春さんは伊豆の踊子に扮装し、熊田住職は尺八を奏でて『伊豆の踊子』の世界観を再現させています。

ここで『伊豆の踊子』が出てきているのは、その前に千春さんが勉強の気分転換に信一郎に『伊豆の踊子』の本を薦めているからです。ちゃんとそのきっかけは、事前に示していて、後の話に繋がっていくのは、この話や三宅さんの脚本に限らない話の基本だなって思いました。

母ちゃんは、新聞記事の中学生の自殺を読んで信一郎の心配をしていて、そこに父ちゃんがすごい勢いで信一郎に声をかけて、信一郎がお寺にいることを知って飛んでいきます。ここで、母ちゃんが新聞を読んでいたことが、やはり、この話のラストの伏線に繋がっていて、このさり気ない伏線とささやかながらも母ちゃんが新聞記事を読んで心配していた姿が、今回の母ちゃんの信一郎を思う気持ちを深く印象付けていたなって、私は思いました。

父ちゃんは、信一郎の為にマンションの一部屋を借りていて、父ちゃんはそこに信一郎を連れて行ってしまいます。『男!あばれはっちゃく』の企画設定書を紹介したことがありますが、父ちゃんは勉強の出来る信一郎を溺愛していて、東大に進学させたいと思っているのですが、今回はその父ちゃんの信一郎への親バカぶりが目に見えて分かりやすく出ていました。ちなみに、父ちゃんが信一郎の為に用意した「砧フラワーマンション」は現在も現存しています。

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『男!あばれはっちゃく』29話より

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41年前と間取りが同じなのかまでは分かりませんが、現在、公開されている物件情報を見ますと、中学生が勉強部屋として使うには充分すぎるほどに贅沢だと感じました。もう、父ちゃんの親バカぶりが分かるというものです。

父ちゃんに連れられてマンションに行った信一郎、母ちゃんは鍵を手にして走っていて、長太郎と千春さんに父ちゃんが信一郎の為にマンションを契約したこと、管理人の人がスペアの鍵を渡してきたことを伝え、もしも信一郎がマンションの屋上から飛び降り自殺をしたらどうしようかと伝えて、砧フラワーマンションに向かいます。

母ちゃんが長太郎と千春さんに会う前に、走る姿があるのですが、その母ちゃんの走り方の必死さ、その後に必死だった理由が分かると、新聞記事を読んでいた母ちゃんの姿と重なって、母ちゃんが信一郎のことをとても心配しているのが伝わってきました。父ちゃんと母ちゃんの信一郎を思う気持ちの現れ方は、それぞれに違うのですが、それぞれの形で信一郎を思っていることが伝わります。

微妙なズレの落差の面白さ

砧フラワーマンションの屋上で信一郎の姿を見た、長太郎、千春さん、母ちゃん、父ちゃんの4人は屋上に駆けあがります。信一郎は手すりのギリギリまで来て、近寄ろうとする4人に「来ないで」と叫びます。

4人は信一郎が飛び降りると思い込んでいますから、必死でとめ、特に父ちゃんはものすごく慌てています。なんとか、取り乱す父ちゃんに気を取られているうちに、信一郎のほうに目をやると姿がない。もう、みんな大慌て。

しかし信一郎はずっと計算問題を解いていて、ようやく問題が解けたと大喜び。この一つのことに集中する集中力の強さ、周囲の心配をよそに好きなことに打ち込むマイペースさは、なんだか長太郎に通じるものを感じます。

長太郎は3人に比べると、そんなに信一郎のことを心配している様子はなかったのですが、多分、それは何処かで、信一郎のある種の能天気さを分かっていたからじゃないかなって思います。

長太郎にもある能天気さは、信一郎にもあって、周囲が心配しているところとは違う場所に立っていて、今回の騒動の中にいたんじゃないかなって思うんです。だから、父ちゃんや母ちゃん、千春さんが心配しているところとのズレが生まれて、騒動が終結した後の信一郎と父ちゃん、母ちゃん、千春さんとのズレ、3人よりは信一郎と同じ位置にいたけれども、屋上で信一郎の姿を見失ったことで、ちょっと焦った長太郎の落差が可笑しさを醸し出しています。

長太郎と同じように父ちゃんや母ちゃん、千春さんと比べて、のんびりしていたのがカヨちゃんで新聞を読んで心配していた母ちゃんに声をかけていたカヨちゃんは、長太郎や信一郎に近い感覚の持ち主なのかなって思いました。カヨちゃんは信一郎のことで父ちゃんと喧嘩して出ていった長太郎を心配して追いかけてきているのですが、これは今回の信一郎を心配するのとは、また別の感情から来ているんじゃないかな、なんて思いました。

カヨちゃんは普段の信一郎の勉強においての実力を知っていますし、今回、数学のテストで80点をとって一時的に落ち込んだとしても、すぐにそれを取り戻すという強い信頼があって、夕食の時に80点を取ることもすごいとフォローしています。

長太郎が家を出たことに関しては、住職に会うまでは長太郎の家出した後の行先が不明だというのもあって心配で追いかけてきたんだろうなって思うのです。カヨちゃんには信一郎には大丈夫という安心感があり、長太郎の突発的な今回の家出は心配だったのが、信一郎と長太郎に対する対応の差だったのかなって思いました。

カヨちゃんの信一郎は大丈夫という信頼からくる安心感は長太郎も持っていて、信頼はしているけれども、今回の信一郎の落ち込みように不安が生まれて心配していたのが、今回は父ちゃんと母ちゃん、千春さん。このそれぞれの立場が信一郎とのズレのとの差になっていて、最後の信一郎の拍子抜けする能天気なマイペースな態度と落差が生まれて、そこに可笑しさが生まれたんだなって思いました。

私が感じた三宅脚本の面白さ

今回は三宅直子さんが書いた『俺はあばれはっちゃく』29話「燃えろ!ママゴン」もこの話(『男!あばれはっちゃく』29話「壊せ!百点マシーン」)と続けて見たのですが、続けて見て感じたのは、微妙な人物の気持ちや考えのズレから生まれる落差の面白さが三宅さんの脚本にはあるんだなってことでした。

こうした、ちょっとした物の見方、捉え方の違いから生まれる可笑しさの話は、三宅さんに限らずあるのですが、三宅さんは何気ない日常から、それぞれが真面目に向き合う中でのズレや些細なことが、人の心の中で大きく膨らんで発展していくことに目を向けているんだなって思いました。人の心や日常に常にアンテナを向けていて、それは、紹介した本の中にも書いてあったのですが、改めて三宅直子さんの書いた『あばれはっちゃく』を見て、それを強く確信しました。

うまく書くことは出来ないかもしれませんし、今回も私が感じたズレと落差から生まれる可笑しさが伝わったか自信がないのですが、『俺はあばれはっちゃく』29話で私が少し感じたズレと落差の面白さを書けたらいいなって思います。

最後に今回の『男!あばれはっちゃく』29話は、最後のみゆきちゃんの長太郎に対する言葉が、長太郎のことをちゃんと分かっていて、それがとても素敵で魅力的に感じました。