柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『男!あばれはっちゃく』28話「よみがえれ!魔女」感想

f:id:kutsukakato:20211103122817j:plain

『男!あばれはっちゃく』28話より

1980年10月4日放送・脚本・田口成光さん・松生秀二監督

初代『俺はあばれはっちゃく』29話「燃えろママゴン」との比較

今回は保護者(母親)によるクラス対抗バレーボール大会で、高校時代に国体で活躍し群馬の魔女と呼ばれた母ちゃんが得意のバレーボールの実力を見込まれて活躍する話でした。長太郎達の母親達が団体球技で活躍し、母ちゃんが責任者となって活躍する話は初代『俺はあばれはっちゃく』29話(脚本・三宅直子さん・松生秀二監督)もそうでした。

ただ、初代の29話と今回の2代目の28話には違いがあって、今回は母ちゃんが自分から国体で活躍して、バレーボールには自信があると話していますが、初代29話では母ちゃんは運動が苦手で、「あばれはっちゃく」のお母さんなんだから、大丈夫でしょうということで、隣町の美好町との親睦会のキックベースの責任者に任命されてしまいます。

f:id:kutsukakato:20211103142617j:plain
f:id:kutsukakato:20211103142646j:plain
左『俺はあばれはっちゃく』29話より、右『男!あばれはっちゃく』28話より

2代目の母ちゃんは運動神経に自信があって、それが誇りになっているのですが、初代の母ちゃんは運動神経に自信がなくて消極的。ただ、話し合いがまとまらないから、相手の申し込みを受けたらどうかと提案し、キックベースに乗り気のない恵子ちゃんやヒトミちゃん、公一の母ちゃん達に、それじゃあ、あばれはっちゃくのお母さんだしって押し付けられてしまったのですね。

母ちゃんが運動に自信があるかないかで、長太郎の対応も反対になっているのが面白いですね。初代は自信のない母ちゃんが責任者に押し付けられているのを長太郎が見て、それを止めに入ったのに対して、2代目はバレーボールに乗り気のないメンバーに群馬の魔女と呼ばれた母ちゃんがいるから大丈夫!と長太郎が母ちゃんを売り込んでいます。

ちなみにバレーボールで魔女というのは、1964年(昭和39年)の東京五輪で金メダルを取った日本女子バレーボールチームが「東洋の魔女」と称されたところからきているのでしょうね。

また長太郎の対応に対する母ちゃんの反応も初代と2代目ではちょっと違っていて、初代では長太郎の思いを受けとめた上で責任者としての役目を引き受け、2代目は自信はあるもののチームを優勝に導くためのコーチを兼ねることに関しては、多分、お店(理容店)のこともあって少し弱腰になっていて、初代の母ちゃんの運動に自信はないけれども、キックベースによる交流を受け入れたらと提案し、「あばれはっちゃく」のお母さんだから運動も大丈夫と言われ困っていた時に、長太郎の言葉に助けられ、それが逆に母ちゃんの迷いを断ち切ったのに対して、2代目はチームの戦力として活躍しようとした母ちゃんがそれ以上の期待と責任を持たされたことに対して戸惑ってしまったように思いました。

初代の長太郎は面倒で苦手な役目を母ちゃんに押し付けるヒトミちゃんのママ達に怒っていて、嫌ななら断っていいんだって母ちゃんに言っていて、母ちゃんを窮地を助けていてそれで母ちゃんは救われた部分が大いにあって、だからこそ、自分が言い出した手前の責任感とあばれはっちゃくの母親としての意地が母ちゃんの中で固まったのかなって、2代目は最初は尻込みしていた母ちゃんが、最終的には腹を括っているので、結果的には同じ対応になっているのですが、そこに行きつく経緯が初代と2代目では反対の反応から始まっているので、改めて見比べるとその違いの面白さを感じました。

女の仕事の多さ

初代と2代目の母ちゃんの違いは他に、初代の母ちゃんが専業主婦だったのに対して、2代目の母ちゃんは理容師として働いているという違いがあります。専業主婦だった初代の母ちゃんはキックベースの練習に2代目の母ちゃんよりは専念出来る立場であったのに対して、2代目の母ちゃんはバレーボールのコーチ、理容店、家のことの3つをやらなければいけない立場でした。

初代は家のことやキックベースのトレーニングの一環としてのジョギングの付き添いは、てるほの協力があり、2代目は家のことと理容店のことはカヨちゃんの協力がありました。母ちゃんの補佐的役割は、初代も2代目も同居するてるほやカヨちゃんといった女の子達なんですよね。

2代目では話の後半で長太郎も夕飯の手伝いをしていたりもしましたが、男性陣が助けるというのが目につかないというのは、家の仕事に関しては、家庭のことに関しては女の仕事で家では男は仕事はしないというのが常識になっていたんだなって思いました。

初代29話の脚本は三宅直子さんで、2代目28話の脚本は田口成光さんなので、女性脚本家だからとか、男性脚本家だからというのではなくて、1979年、1980年代の価値観としてはそれが普通の感覚だったんだなって思います。

今でこそ、家のことを全て女性にだけ押し付けるのはどうなのか?という意見が見受けられますが、40年以上前はそうではなかったということになるのですね。40年以上前の当たり前と、今の当たり前の変化を感じるのも、『あばれはっちゃく』の話の魅力の一つだと私は思います。

それを踏まえた上で、今回の『男!あばれはっちゃく』28話は、41年後の価値観に繋がる布石になっている話ではないかと感じました。今回、母ちゃんがバレーボールの練習に打ち込んだ結果、家のことが疎かになり、父ちゃんや信一郎の反感と怒りを買い、また、弘子ちゃんのお父さんも桜間家に怒鳴り込んできて、桜間家だけではなく、立花家、他の家庭においても、家庭における母親の役割に対して、その夫、父親、男性達に対する要求がどんなものかが見えました。

f:id:kutsukakato:20211103143134j:plain
f:id:kutsukakato:20211103143219j:plain
『男!あばれはっちゃく』28話より

父ちゃんや弘子ちゃんのお父さんの怒りの言葉からは、とにもかくににも、家のことを最優先して欲しいというのがあって、母ちゃんや弘子ちゃんのお母さん達が頑張っているバレーボールの練習なんかは、後回しにして欲しいというのが本音なんだなって。

けれども、母ちゃん達は決して後回しになんてしていなくて、どちらもやっていこうって頑張っていて、それでも体は一つしかないから、疲れてしまって、家事をするのにちょっと休む時間が必要で、取り掛かるのが遅くなったり、出来ない時も出てくるんだけども、父ちゃん達は常に家に帰ってきたら、ご飯がすぐに食べられる状態になっていないと嫌だ、それが当たり前だという考えになっているんだなって思いました。

この父ちゃんの考えによって、母ちゃんは無理をすることになり、本番の大会で貧血を起こして倒れてしまって、母ちゃん抜きで勝ったことによって、みゆきちゃんのママ達に母ちゃんが馬鹿にされてしまう展開になって、ようやく父ちゃんは母ちゃんに我儘を言って無理をさせていたことや母ちゃんに辛い思いをさせたことに気が付いて、母ちゃんのサポートに入り、決勝戦で母ちゃんの名誉を挽回させようと、桜間家総出でバレーボールの為のトレーニングをすることになっていきます。

母ちゃんは家庭のことを優先させるのが当たり前という父ちゃんの考えが変わった出来事で、これはこのドラマが放送された41年後の2021年現在の女性だけが家事を全てやるべきだという考えに繋がっているんじゃないかなって感じました。ドラマの中ではトレーニングの場面しかないのですが、トレーニングをする為に家のことを片付けておかないといけないわけで、桜間家総出で協力することになったのなら、カヨちゃんだけでなく、父ちゃんも長太郎も信一郎も家の仕事の協力をしていたのだと私は思うのですね。

前回も書きましたが、『あばれはっちゃく』はドラマの中で映像で描写されていないところがあっても、話を見ていく中で、描かれていない部分を想像させるだけの情報が詰め込まれていて、その為に話が見ている以上に深く、濃くなっていて、正味25分のドラマでありながら、それ以上の内容が詰まっているって思います。つまり内容がとても濃いドラマなんです。

子どものしごきに

初代29話と今回の2代目28話の違いは、長太郎の指導に対する母親達の対応にもありました。初代長太郎は練習の成果を見るために長太郎達子ども達のチームと母親達のチームでキックベースの練習試合をして、長太郎は敵である母親達のチームに檄を飛ばし、母親達のチームのミスを悔しがって、佐々木先生に「お前はどっちの味方なんだ」って突っ込まれ、自分達のチームが点数を取ったのに、母親達のチームの不甲斐なさに、ヒトミちゃんのママ達を非難して怒らせてしまいます。

f:id:kutsukakato:20211103143414j:plain
f:id:kutsukakato:20211103143439j:plain
左『俺はあばれはっちゃく』29話より、右『男!あばれはっちゃく』28話より

一方で2代目長太郎は母ちゃんの代わりにバレーボールのコーチを引き受けて、かなり激しいトレーニングをさせるのですが、みゆきちゃんのママ達はそれを受け入れて、一人も文句を言いません。怒鳴り込んできたのは、弘子ちゃんのパパだけで、翌日、母ちゃんが弘子ちゃんのママに謝ると、弘子ちゃんのママは長太郎や母ちゃんを責めることなく、夫である弘子ちゃんのパパの考え方の方がおかしい、母ちゃんのことを笑って許してくれています。

f:id:kutsukakato:20211103143541j:plain
f:id:kutsukakato:20211103143600j:plain
『男!あばれはっちゃく』28話より

母ちゃん抜きで勝って、母ちゃんを馬鹿にしてしまって、父ちゃんの怒りを買ったみゆきちゃんのママ達でしたが、長太郎に激しく辛いトレーニングをさせられたことに対しての恨みは全くなく、子どもの長太郎の指示に素直に従っている姿は、ちゃんと長太郎をコーチとして認めていたんだなって思いました。今回、怒鳴り込んできたのは弘子ちゃんのパパで、みゆきちゃんのママではなかったのを見ても、19話の感想でも書きましたが、やはりみゆきちゃんのママはちゃんと怒るべきことに対しての線引きが出来ている人なんだなって思いました。

初代の長太郎も2代目長太郎も、やるからには勝つために必死になっていて、それが行き過ぎて、初代はヒトミちゃんのママ達に、2代目は父ちゃんや弘子ちゃんのパパ達にそのやり方を非難されてしまったのですが、そのやり過ぎに対しての反省からの行動ややり方の見直しへの対応の動きが早かったなって思いました。

ただ、ここでも初代と2代目では、微妙に違いがあるので、長太郎の反省からの行動にも違いがありました。初代の長太郎は感情に任せて言い過ぎたことに対して全面的に自分の悪かったことを認め土下座して謝り、2代目の長太郎には悪い部分がなかった為に、そうなってしまった環境を作り出した原因になった父ちゃんの考え方の改善を要求したことです。

今回に限っての2代目長太郎は自分以外の人に改善と反省を求めましたが、2代目長太郎も自分が悪いと思った時は、自分の誤りを認めて謝るので、そこは全シリーズ通しての長太郎の性格だと思いました。自分の過ちであれば認め、そうでなければ反論したり、明確に誰のせいなのか分かれば、その相手に直接伝えるというのが長太郎です。これはシリーズ通してそうだったなって思います。

f:id:kutsukakato:20211103143847j:plain
f:id:kutsukakato:20211103143913j:plain
左『俺はあばれはっちゃく』29話より、右『男!あばれはっちゃく』28話より

似ているようで反対のようで

今回は初代『俺はあばれはっちゃく』29話と比較しながら、2代目『男!あばれはっちゃく』28話の感想を書いてきましたが、似ている部分がありながら、よく見ていくと実は違う部分、反対のところから最終的に同じ帰結になっていく話の流れになっているのが面白く感じました。

  • 運動神経に自信のない初代母ちゃんと自信のある2代目母ちゃん。
  • 母ちゃんに無理に責任者にならなくていいと庇った初代長太郎と進んで母ちゃんに任せろと言った2代目長太郎。
  • 長太郎の指導に怒ったヒトミちゃんのママ達と長太郎の指導に文句を言わなかったみゆきちゃんのママ達。
  • 行き過ぎた指導、言葉に反省して土下座した初代長太郎とそうなってしまった原因を生み出した父ちゃんに怒鳴った2代目長太郎。

簡単に箇条書きにしてみると、初代29話と2代目28話の違いはこの4つに整理されると思います。それでいて、最終的に帰結する話の結末と話の印象は同じものになってると感じられて、脚本家が違ってもシリーズを通した『あばれはっちゃく』の統一された色、特徴になっているんだろうなって思いました。また、初代29話と2代目28話の監督がお馴染みの松生秀二監督であったのも、印象が同じに思えた理由の一つだったのかなって思います。

他に気づいたこと

今回の28話に関しては、アバンタイトルや気づいた小ネタもあるので、それは、また次の機会に書こうと思います。また、初代29話に関しても見直したことで、気づいた部分があるので、それに関しても折を見て書いていけたらなって思っています。