柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

『男!あばれはっちゃく』13話「決斗!ジジババ」感想

f:id:kutsukakato:20201122184326j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

1980年6月14日放送・脚本・山根優一郎さん、山際永三監督

手法を変えて

まだ本格復帰ではありませんが、時間や精神的な余裕があるときに『男!あばれはっちゃく』の各話の感想を書いてきます。

そこで、これまで書いてきた1話~12話の感想記事のスタイルと変えて再開します。1話~12話までは、アバンタイトル感想、本編感想、まとめのスタイルでしたが、それをやめて全体の感想、話の中で気づいたこと、発見したことを思いつくまま書き連ねていこうと思います。本放送当時の放映日の更新にはなりませんが、またお付き合い願いましたらよろしくお願いします。

今日から少しずつの再開、まずは続きの13話から。

本放映の放送日は1980年6月14日でした。今日が11月22日なので、いや5ヵ月と1週間も開きましたね。ちなみに1980年11月22日は35話「返せ!自転車」でした。

本来なら35話について書く日ですが、これまで中断していた続きで13話の感想になります。

長太郎の祖父ちゃん登場

この話で長太郎のお祖父ちゃんが初登場しますね、初代『俺はあばれはっちゃく』23話「たなばた幽霊」に出演した柳谷寛さんが長太郎のお祖父ちゃんになって、『あばれはっちゃく』シリーズに戻ってきました!

このお祖父ちゃん、長太郎の母方のお祖父ちゃんなので、長太郎の母方の従姉であるカヨちゃんにとっても血の繋がったお祖父ちゃんになるんですね。

で、お祖父ちゃんは自分のことを「さの げんのすけ」と名乗っているので、母ちゃんの旧姓が「さの」だって分かります。母ちゃん、結婚前は「さの和子」さんだったんですね。ちなみにお祖父ちゃんの名前の漢字はドラマの中では分かりませんでしたので、平仮名表記にしてあります。

長太郎はお祖父ちゃんが来ることを寺山先生やみゆきちゃん達に話して、その時にお祖父ちゃんが「馬庭念流」の剣道の先生だって話しているんですが、この馬庭念流って本当に実在する剣道の流派なんで驚きました。

www.city.takasaki.gunma.jp

それから、お祖父ちゃんがこの場面で歌った歌も実在している歌です。『不識庵機山を撃つの図に題す』正確には詩吟ですね。

f:id:kutsukakato:20201122085118j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

 

川中島(不識庵機山を撃つの図に題す)

川中島(不識庵機山を撃つの図に題す)

  • 発売日: 2013/12/18
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

それから、長太郎とお祖父ちゃんがお風呂で歌ったドリフターズの『いい湯だな』 。もう、『あばれはっちゃく』の後はTBSの『8時だよ!全員集合』を見ていた人も多いと思うんですが、その前に『あばれはっちゃく』の裏番組(関西地区は除く)の『大橋巨泉クイズダービー』を見ている家庭も多かった中で、終わった後に始まるとはいえ、ライバル局の看板番組でお馴染みの歌を歌うなんて、チャレンジャーだなって思いましたね。ま、それだけ当時はみんなが知っていた歌でしたものね。

で、2代目に限らず『あばれはっちゃく』って、初代の記事でも書いてきたんですが、調べてみると実際に存在している文化とかが話の中に組み込まれていて、話の中で大なり小なりしっかり生かされているんですよね。だから、本当に自分達の現実と同じ現実の世界なんだなって子どもの頃は錯覚していましたよ、私は。

kakinoha.hatenadiary.com

kakinoha.hatenadiary.com

kakinoha.hatenadiary.com

kakinoha.hatenadiary.com

kakinoha.hatenadiary.com

kakinoha.hatenadiary.com

kakinoha.hatenadiary.com

kakinoha.hatenadiary.com

山中恒先生の本

実在しているといえば、13話では他にゲストキャラの「まつやま あきお」が読んでいた本です。

この本は今回の話に効果的に印象的な小道具として使われています。

本のタイトルは『リボンのムツ五郎』。このタイトルを見て分かる人は分かりますよね。気づいた人もいると思います。『リボンのムツ五郎』は『あばれはっちゃく』の原作者である山中恒先生の作品です。

恥ずかしい事に私は『リボンのムツ五郎』を未読なので、今回の話の面白さを現段階ではちゃんと理解していないと思っています。

長太郎があきおとぶつかって知り合う場面で、あきおが読んでいた本が地面に落ちるのですが、この時に本の後ろにある本の中身が見えて本のシリーズ作品表が見えます。これが山中恒先生の作品の一覧表になっていて、そこにはちゃんと『あばれはっちゃく』もあるんです。

f:id:kutsukakato:20201122083558j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

あきおは長太郎のことを「あばれはっちゃく」ってすぐに呼んでいましたが、もちろん、長太郎が学校内で「あばれはっちゃく」として有名で他のクラス(あきおは5年2組、長太郎は5年3組)まで名前が轟いているんだって解釈もあるんですけど、この一覧表の場面を見ると、あきおがドラマの中で読んでいたのは『リボンのムツ五郎』だったけども、優等生のあきおはそれ以外の山中仁児童よみものシリーズを読んでいて、『あばれはっちゃく』も読んでいたんじゃないかなって思っちゃうですよね。それで、長太郎は「あばれはっちゃく」だって知っていたとか。

そんなメタ的なことを考えてしまいました。

 体が弱いと祖母に過保護に育てられたあきおは、長太郎とお祖父ちゃんに鍛えてもらうことになるんですが、この時に有名な寺山修司さんの評論集『書を捨てよ町へ出よう』(1967年出版・1971年映画化・脚本・監督寺山修司さん)をアレンジした言葉をお祖父ちゃんがあきおに言っています。

書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)

書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)

 

 

f:id:kutsukakato:20201122085908j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

「書を捨て野にいでよ」 

ってね。

あ、その前にお祖父ちゃんのランドセル投げも見る事が出来ます。

f:id:kutsukakato:20201122085922j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

さて、あきおが読んでいた『リボンのムツ五郎』この本が小道具としてメタ的に使われているだけでなく、この「書を捨てよ」の言葉にかかって、この話のテーマを効果的に見せる小道具になっていると感じました。実はお祖父ちゃんがあきおに「書を捨てよ」と言う前に意図しないであきおは既に「書」を捨てているんですね。

それが下の引用画像。

f:id:kutsukakato:20201122090347j:plain

f:id:kutsukakato:20201122090407j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

それまで常に本を持って読んでいたあきおにとって大事な本が落ちたまま。この本になくなったことに気づくことなく、また話の終わりで回収されることなく13話は終わっています。映像の中で、あきおにとって大事な本という印象がついていただけに本がなくなった事に気づかないことや、取り戻した描写がないのが不自然に感じました。本のことを少し置いておきます。

あきおの頼みであきおを鍛えることにしたお祖父ちゃんは座布団で頭を保護した長太郎に反撃させずにあきおに頭を叩かせるのですが、我慢が出来なくなった長太郎が反撃して、あきおをやっつけたことであきおの祖母の怒りをかって、怒鳴り込まれます。長太郎とお祖父ちゃんが大好きなあきおはそんな祖母に反発してしまい、あきおの祖母は長太郎のお祖父ちゃんに決斗を挑むことに発展します。

長太郎のお祖父ちゃんが馬庭念流ならば、あきおの祖母は長刀。あきおの家は四国丸亀藩江戸家老の血筋だそうです。少し話の時間を巻き戻してみると、あきおが無理やり病院に連れていかれる場面があるのですが、この場面は長太郎と長太郎のお祖父ちゃんが遭遇でもあります。そこで、あきおの祖母が言っているんです。

f:id:kutsukakato:20201122091856j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

「世が世なら、四国、丸亀藩江戸家老の血を引く孫ですぞ」

四国の丸亀藩ということで、現在の香川県のことでしょうね。

さて、なぜ、病院に連れて行かれる事になったかといえば、その前に長太郎があきおとぶつかって腕に痣が出来てしまったからなんですね。

ここで、本の話題に戻ります。この上記の引用画像を見るとあきおは、ここでも『リボンのムツ五郎』を大事に持っています。初登場の時にも『リボンのムツ五郎』を読んでいて、あきおにとって『リボンのムツ五郎』が大事な本だって印象が強く残るんです。

f:id:kutsukakato:20201122092500j:plain

f:id:kutsukakato:20201122092513j:plain

f:id:kutsukakato:20201122092529j:plain

f:id:kutsukakato:20201122092542j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

それなのに、あきおは『リボンのムツ五郎』を落としたことに気づかず、後で探したりしない。それがとても不思議でした。

この疑問に関しては、長太郎のお祖父ちゃんとあきおの祖母の対決の成り行きを見ていくと次第に私なりの回答が出てきました。

長太郎のお祖父ちゃんとあきおの祖母が決斗して、それぞれにいい闘いをするんですが、最後には長太郎とあきおの戦いに。その前に長太郎とあきおが目くばせをしていて、長太郎とあきおの間には誤解も恨みもないってことが伝わってくるんです。

あきおは自分の意思を祖母に伝えていますし、長太郎やお祖父ちゃんを悪くいってません。ただ、祖母に聞かれて素直にありのままに話して、それを聞いた祖母が勝手に怒って長太郎とお祖父ちゃんを恨んでしまうのですね。それでも、あきおも自分のために祖母が決斗までしているのを見ていると、やはり祖母の側に立つことになる。そこに、あきおの優しさを感じました。長太郎の方もそれが分かったからこそ、あきおとの戦いの前に目くばせをしたんだなって思うんですよね。これは私の想像なんですけど、先に長太郎のお祖父ちゃんが胸を抑えて苦しんで、とどめを刺されそうになった時に長太郎がお祖父ちゃんを庇うんですが、あきおもそれで自分の祖母を庇って長太郎の前に立ちはだかるんです。

この孫二人のそれぞれの祖父、祖母に対する思いやり、優しさが感じられる場面はとても素敵だなって感じました。

で、本を大事にしていたあきおが本を探さなかった理由についての私なりの解釈なんですが、本を友にしていたあきおが結果的に書を捨てた形で、自分の意思を貫き、本ではなく現実の世界で、祖母に自分は体が弱いだけの人間ではないと証明したことを象徴したのかなって思ったんです。

このことで祖母と和解して、孫達に助けられたことで長太郎のお祖父ちゃんとあきおの祖母も和解出来た。本の世界も素敵だけど、自分達がそれぞれ主人公で生きている現実世界で行動を起こすことが自分達の生きている世界を広げるんだってことがこの13話のテーマだったのかなって私は勝手に思っています。

山際永三監督が作る印象・山根優一郎さんが生み出す話

『リボンのムツ五郎』はあきおと常にあったという印象を視聴者につけ、それが捨てられた場面をしっかりと焼き付けて見せている。これは、この13話の監督である山際永三監督の手法だと思います。本の世界から出て現実の世界に向き合ったあきおを『リボンのムツ五郎』の本と言う小道具を印象的に見せることで表現したと思いました。

その後で「書を捨てよ」という言葉が長太郎のお祖父ちゃんから出てくる山根さんの脚本。この脚本の言葉が、山際監督の『リボンのムツ五郎』の映像での見せ方によってしっかりと生きています。

しかもその小道具に使ったのが『あばれはっちゃく』の原作者の山中恒先生の『リボンのムツ五郎』あきおが大切にして愛読していた『リボンのムツ五郎』の内容が分かればもっと深くこの13話を楽しめ、理解出来ると思いました。ああ、この本も読まなければ。

リボンのムツ五郎 (山中恒児童よみもの選集 8)

リボンのムツ五郎 (山中恒児童よみもの選集 8)

  • 作者:山中 恒
  • 発売日: 1977/10/15
  • メディア: 単行本

追記

調べて『リボンのムツ五郎』のあらすじが分かりました。

小牧むつ子は女番長。5年生になり新任の佐藤先生の影響で女らしくなるものの、男番長の牛島清吉は先生の手先と馬鹿にする。ここに番長同士の対決が始まる

なんか、この13話のジジババ対決の小学生版みたいだと思いませんか。原作のあばれはっちゃく』と初代『俺はあばれはっちゃく』にも女番長のタマエが出てきて長太郎とやりあう(ドラマはちょっと違うけど)がありましたね。それを思い出しました。

『リボンムツ五郎』は家の光協会『こどもの光』に連載された作品でした。

kakinoha.hatenadiary.com

 これは私の贔屓になっちゃうんですが、『あばれはっちゃく』シリーズの最初を飾った山際監督、山根脚本っていうのは(初代『俺はあばれはっちゃく』1話のこと)やはり見ていて見応えがあって、印象に残る映像や言葉、話展開、人が動くことで話が完結する流れが自然でシリーズの話の中でも一際光っていると思います。

山際監督は、松竹出身の山根さんは真面目で、市川靖さんの破天荒な脚本の方が好きだと話されていましたが、山根さんの真面目さが破天荒な長太郎の行動をただの暴力的な乱暴者にしていなくて、山際監督の映像が山根さんの真面目さを打ち破る形になって相乗効果が出たのかなって私は勝手に思ったりしています。

kakinoha.hatenadiary.com

現在の価値観による評価に思う事

初代のいたずらが度が過ぎる、シリーズが進むにつれておとなしくなっていった、おとなしくなった方が良いと思う人もいるだろうし、シリーズ中も世間に次第に合わせて演出や長太郎のいたずらを抑えていったのだろうと思うのですが、私は初代長太郎がとんでもないいたずらをしたとしても、それなりにちゃんと叱られていていることで釣り合いがとれていると思っているんですね。この感覚は人それぞれだと思いますが。

長太郎のいたずらをもろ手を挙げて讃えているだけなんてことはないし、長太郎もしっぺ返しを食らっているし、父ちゃんに激怒されている。

でも、今では長太郎の(特に初代)いたずらも父ちゃんや先生や母ちゃんの叱りも、度が過ぎている、暴力的に見られて、次第に控えめになっていった2代目以降も含めて、『あばれはっちゃく』は現在では再放送が難しいとされてしまうのは、作品のファンとして本質を見ないで評価されているようで、とても淋しく感じます。

ゲスト出演者

f:id:kutsukakato:20201122123153j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

さの げんのすけ役:柳谷寛さん。

長太郎の母親和子の父親で長太郎の母方の祖父。演じた柳谷さんは、初代『俺はあばれはっちゃく』23話にも登場。1911年11月8日生まれ。青森県出身。日本映画学校を卒業後、P.C.L入社。1935年山本嘉次郎監督の映画『坊つちゃん』のガキ大将役ででデビュー。戦後、俳優グループ第一協団に所属。多くの会社の作品に出演しました。私はいろいろな作品でお見掛けしましたが、私は『あばれはっちゃく』シリーズの他では『ウルトラQ』の「あけてくれ!」の話のサラリーマンの印象が強いですね。2002年2月19日90歳で亡くなられています。

f:id:kutsukakato:20201122092513j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

まつやま あきお役:伊藤秀和さん

伊藤秀和さんは、NHKドラマ『阿修羅のごとく パート2』(1980年1月19日~2月9日)の土屋省二役、ハウスこども傑作劇場『宿題ひきうけ株式会社』(1982年3月16日)等にも出演されています。『宿題ひきうけ株式会社』は古田足日先生の児童文学でその作品の1話限りのドラマ化でした。監督は『あばれはっちゃく』でもお馴染みの山際永三監督。この『男!あばれはっちゃく』13話(1980年6月14日放送)の後なので、それ以外でも仕事をされているかもしれませんが、あきお役があってまた山際監督に選んでもらったのかもしれませんね。そういえば、山際監督は2代目の途中から『あばれはっちゃく』シリーズから抜けるので、3代目、4代目、5代目のレギュラー子役と仕事をする機会はないんですが、4代目のヒロインまゆみちゃん役の水沢真子さんが「あばれはっちゃく同窓会」で山際監督とお会いした時に、水沢さんが主役デビューした作品の監督だったということで感激されたそうです。ちなみにその作品の脚本家が「あばれはっちゃくシリーズ」でもお馴染みの田口成光さんで田口さんも同窓会にいたとか。

ちなみにその作品もハウスこども傑作劇場で放送された『おかあさんのつうしんぼ』(1982年6月1日放送・原作・宮川ひろ先生)でした。この頃は、本当に児童文学の児童ドラマがとても多くて楽しかったですね。伊藤さんは他にも大河ドラマ徳川家康』(1983年)に織田源三郎役(信長の五男)で出演されていたりします。

f:id:kutsukakato:20201122123230j:plain

『男!あばれはっちゃく』13話より

あきおの祖母役:福田妙子さん

評論家、翻訳家、演出家として有名な福田恆存さん(1912年8月25日~1994年11月20日)を兄に持つ福田妙子さん、夫は俳優の加藤和夫さん。兄、福田恆存さんと自身について『婦人公論』1951年3月号に寄稿されています。『婦人公論』に文章を寄せた時は、文学座女優とあり、夫の加藤さんも文学座出身なので、お2人は文学座を通して出会ったのだと思います。

テレビドラマでは『海風が吹けば』(NHK・1956年5月~7月)や『わが町』(日本テレビ・1957年)『離婚学入門』(TBS・1961年)『七人の刑事』(TBS・1961年10月~1969年4月)163話(1967年10月2日放送)等に出演されていました。他にも映画に多数出演されています。