脚本・安藤豊弘さん・松生秀二監督
アバンタイトル
木の上を見上げる長太郎。そこに、みゆきちゃん、洋一、邦彦、弘子ちゃん、和美ちゃんがきて、長太郎が見上げた先を見る。そこには、鳥の巣のようなものが、揺さぶられて鳥の巣から蛇のおもちゃが落ちてきて、戸惑うみゆきちゃん達。いたずらが成功して笑う長太郎の頭に、巣が落ちてきてオチ。
珍しく、今回のアバンタイトルは次に始まる、本編と若干関連性のあるアバンタイトルになっています。アバンタイトルは本編内容とあまりリンクしないのですが、たまにはリンクする時もありますね。
本編
朝のみゆきちゃんの登校の場面から。理容サクラマの前の道路を掃き掃除しているカヨちゃんに挨拶をするみゆきちゃん。随分、早い登校に声をかけたカヨちゃんに、みゆきちゃんは、当番なんです、と答えて登校していきます。
桜間家の食卓、英語の単語帳を捲りながら、朝食を食べる信一郎。東京の学校は進んでいて、勉強についていけるか、と心配する母ちゃんと父ちゃんに対して、頼もしい返事をする信一郎。テストを見せて「百点は僕だけさ」と答えると、父ちゃんが信一郎は「我が家のホープだ」と信一郎への期待とそれを裏切らない姿に喜んでいます。
一方長太郎は、まだ、寝ていて、カヨちゃんが長太郎を起こしに行きます。起こされた長太郎は、となりのみゆきちゃんの部屋に声をかけますが、カヨちゃんからもう登校した事を告げられ、「冷たいな」と不貞腐れ。
長太郎も食卓に来て、朝食を食べ始ます。信一郎は既に登校して、入れ違い。長太郎は信一郎と比べられ、父ちゃんと母ちゃんは、長太郎にもちゃんと友達を作るようにと言いますが、長太郎は「そんなことを言われたら、メシがまずくなる」と抗議。長太郎はまだ切り分けていない残りの食パンを丸々抱えて、登校していきます。「給食までにお腹が減るの」と言って。
今回は、既に、ここで大きな振りがありました。長太郎は父ちゃんと母ちゃんから友達を作るようにと言われていて、それを守ろうとして、行動していきます。学校へ行く途中、長太郎は食パンをくり抜いて食べ、筒状になった食パンを望遠鏡のようにして、覗き、寺山先生を見つけると声をかけます。
食パンの事を聞かれて、弟のドンペイの大好物だと長太郎は答えます。学校に着くと、校庭でクラスメイト達がサッカーをしているのを見て、長太郎はその中に入っていきますが、長太郎が蹴ったボールが盆栽をいじっていた校長先生に当たり、みんなは退散。長太郎は校長先生に怒られます。この時、長太郎が校長先生のあだ名「盆栽じいさん」を校長先生に行ってしまったため、教室に戻ると、それについて、洋一や弘子ちゃん、和美ちゃんから文句を言われてしまいます。
校長室では、寺山先生に新任の音楽の松島先生が紹介されていて、それを通りかかったみゆきちゃんと邦彦が見つけます。新しい先生が素敵で音楽の授業が楽しみというみゆきちゃんに、何かを思いついた邦彦。それが何かと尋ねたみゆきちゃんに、「内緒、内緒」と答えた邦彦は、教室に戻ると、新任の松島先生にいたずらをするのが、5年3組の憲法だと長太郎に話します。
「転校生の度胸試し」
それが出来ないと、長太郎はクラスからは認められないとの言葉に、校長先生のことで、洋一や弘子ちゃん、和美ちゃんから非難され、和美ちゃんには「だから、このクラスに入れる事を反対したのよね」とまで言われていて、さらには、朝の食卓で父ちゃんと母ちゃんから友達を作れ、と言われていたこともあって、クラスに認められ、友達も作る為にも、邦彦が出した度胸試しをやる事を決めます。
今回の脚本は、安藤豊弘さんですが、長太郎がクラスメイト達から拒絶されて、5年3組に入れないでくださいって言われたのは、既に1話(脚本・山根優一郎、監督・山際永三)で描かれているので、ちゃんと1話からの流れを汲んでいる展開なんですよね。長太郎がリスの件でちょっぴり見直されても、まだ、本当にちょっぴりで5年3組に認められていない。
邦彦が持ちかけた度胸試しは、長太郎が一躍、クラスに認められる大事なチャンス。だから、長太郎はその誘いに乗るのですが、長太郎が松島先生を驚かすのに用意したどじょうは、想像以上に効力を発揮して、音楽室を通りかかった校長先生に騒ぎを知られて、長太郎は校長室に呼ばれ、寺山先生も呼ばれて怒られてしまいます。校長先生にとっては、朝の件もあり、2回目。校長先生が寺山先生に話している間に長太郎が校長室の机にある盆栽の枝を折ってしまい、さらに追加で怒られてしまいます。
それで、寺山先生は長太郎を連れ出して、校庭で、松島先生にいたずらした事を聞くのですが、長太郎は邦彦の言ったクラスの憲法を守り、頑なに邦彦達からそそのかされて、やった事を話さなかった為に、罰として校庭に水の入ったバケツ2つを持って立たされてしまいます。
長太郎が罰を受けている姿は、クラスメイト達から認められるために、邦彦達の事を言わず、ずっと耐えている姿の健気さ、何も知らない寺山先生との温度差が切なくなりました。
この松島先生への長太郎のいたずらが、先に書いたアバンタイトルでの長太郎の邦彦達へのいたずらと少しリンクしました。それにしても、長太郎が用意したどじょうが松島先生の大の苦手だったということで、必要以上に長太郎のいたずらは効果が大きかったのですが、まだ新任したばかりの松島先生が、よりにもよってどじょうが苦手だなんて、どこで長太郎はその情報を仕入れたのでしょうか、不思議です。これは、初代『俺はあばれはっちゃく』2話で長太郎が正彦の苦手なカエルを正彦の下駄箱に入れた時にも思いました。2話で転校してきた正彦がカエルが苦手だなんて、まだ、2話では正彦の事をよく知らない長太郎は知らなかったはずで、たまたま、長太郎が仕込んだカエルが正彦の苦手な物だったわけで、これは、今回の4話の松島先生も同じなんだろうなって思います。
本編の本筋から少し、離れますが、松島先生がどじょうに驚く場面で、校歌の歌詞の貼り紙を確認出来ます。見にくいですが、校歌が三番まであるのが確認出来ました。また、校長室に呼ばれて怒られている場面で、歴代校長の写真を見る事が出来て、それが3代目までってことも確認出来ます。
長太郎は、下校時間まで校庭に立たされても、みんなの事は言わなかったと、邦彦達に声をかけますが、「やりすぎ」「もっとスマートにできなかったのか」と文句を言われて、長太郎は切れて、邦彦に襲い掛かり、そこに寺山先生が来て、さらに1時間立っているように言われてしまいます。
長太郎としては面白くありません。
(どいつも、こいつも、卑怯者ばかりだ!)
腹が立った長太郎は、学校から帰るとランドセルを放り投げます。ランドセルはお店にいたカヨちゃんを直撃。カヨちゃん、可哀想。
ランドセルを放り投げた長太郎は、その足で邦彦の家に向かい、自転車で塾に行く邦彦を呼び止め、邦彦に怒りをぶつけます。自転車に乗る邦彦を投げ飛ばし、手提げかばんを引き裂き、ノートを破り、踏みつけ、自転車を持ち上げて邦彦目がけて投げつけます。
当然、これは邦彦の父親、佐藤部長の耳にも入り、佐藤部長が長太郎の家に怒鳴り込み、父ちゃんと母ちゃんは佐藤部長から長太郎の教育、躾がなっていないと嫌味を言われてしまいます。長太郎は父ちゃんから、謝れと言われますが、長太郎は謝りません。長太郎の中には、邦彦達、特に憲法だと言って、それで5年3組の仲間になれると言ってきた邦彦に対して、裏切られた気持ちが強く、罰を受けても邦彦達の事を言わなかったのに、という思いが強くあったのだと思うと、長太郎が謝らないのは、男の意地に感じました。
長太郎が暴力に出るまでにどんなに理不尽で心が傷つけられ、裏切られたか、その悔しい思いが分かってもらえず、一方的に悪者にされてしまった悲しさ。長太郎が理由もなく暴力をするわけがないと分かっていてくれるって、父ちゃんと母ちゃんなら、兄ちゃんなら分かってくれるって長太郎は思っていたんじゃないかなって思うんですよね。父ちゃんに張り飛ばされて、怒鳴られたけど、信一郎までも長太郎に「謝れ!」って言ってきて、カヨちゃんも「謝ればいいじゃない」って言われて、それは、カヨちゃんは長太郎の味方側としての発言だったと思うけど、頭に血が上った長太郎には、カヨちゃんの言葉さえも、自分を責めている言葉に聞こえたんだろうなって思うんです。
長太郎は、父ちゃん、母ちゃん、信一郎、カヨちゃんから「謝れ」って言われているんですが、同じ言葉でもカヨちゃんの言葉だけが、他の3人とは違う「謝れ」のニュアンスに聞こえました。父ちゃん達は、長太郎が悪い事をしたから「謝れ」って強く長太郎を責めているように聞こえましたが、カヨちゃんは、長太郎が悪くなくてもこの場を治めるために、長太郎が家を追い出されない為に、この場は「謝れ」って言っているように感じたのです。
それでも、長太郎はそこで謝ったら、自分が悪かったと認める事になるから、意地でも謝らなかった。長太郎が邦彦にした事は悪い事ではあるけれども、そこに行きつくまでの長太郎の心理やそれをした動機は、そんな簡単に済まないほどに深い悲しみがあって、それを言えば父ちゃん達も分かってくれるかもしれないけれど、邦彦からの話を聞いた佐藤部長の言葉を信じて、長太郎を責めてきた父ちゃん達に話しても、言い訳に思われると長太郎は思ったのか、言い訳をしないで、でも、怒りは収まらないところが、長太郎の心の荒れ模様を感じられてやるせません。
長太郎はドンペイと一緒に出ていきますが、自分のお金を取りに一度家に帰り、お店の入り口を叩いて、お金がないと食べ物が買えない、開けろ!と抗議します。なんか、この場面を見ていて、昨今の現実2020年の状況を思い出してしまいました。お金がないと食べ物も、安心した生活もおくれませんんものね。
長太郎が家から閉め出されている姿を、隣の家のみゆきちゃんが見つめています。
ここで流れたBGMは初代『俺はあばれはっちゃく』のエンディング『はっちゃく音頭』アレンジされた悲しいメロディと思い出される歌詞がとてもこの切ない場面に合っていました。
みゆきちゃんは、いたずらの後、邦彦達から冷たくされていた時も、心配そうに長太郎を見ていて、長太郎が寺山先生や家族からも一方的に悪者にされてしまったこと、自分もそれに加担した事を心苦しく思っている表情をしていました。この折に触れて、長太郎を心配するみゆきちゃんの存在が、長太郎の救いになっていきます。
長太郎は物置の段ボールで寝る事にして、そこにカヨちゃんが毛布を持ってきて寝ている長太郎にかけます。寝言で長太郎は群馬にドンペイと帰る事を言っています。
翌朝、配達された牛乳を取りに行き、長太郎の寝ている物置にカヨちゃんが行くと既に長太郎とドンペイの姿はなく、カヨちゃんは通りかかったみゆきちゃんに長太郎がいなくなったことを告げます。カヨちゃんから話を聞いたみゆきちゃんは自転車で、河原で運動をしている寺山先生を見つけて、今回、起きた騒動の全てを話し、寺山先生と手分けして、長太郎を探します。長太郎は、群馬の祖父ちゃんの所に帰るために、群馬ナンバーの車を見つけて、ヒッチハイクで群馬に帰ろうとしていました。
そこへ、みゆきちゃんと寺山先生が駆けつけます。寺山先生はみゆきちゃんから話を聞いた事、みんなの事を言わなかった長太郎を褒めますが、長太郎の傷ついた気持ちはそれだけでは収まらず、群馬に帰ると譲りません。長太郎は泣いてはいませんが、きっと本当は大泣きしたかったのではないかと思いました。どんだけ、長太郎が悔しい思いをしたかは、ここまでで充分、伝わってきていたからです。
群馬に帰るという長太郎に、寺山先生の平手が飛びます。
「このいくじなし、お前は負け犬だ」
「 違うわい!俺は負け犬なんかじゃないや」
「尻尾を巻いて、群馬に逃げようとしたじゃないか!」
「逃げるんじゃ、ねぇよ」
「だったら、東京にいろ!」
「ああ、いてやらあ」
「ようし」
この前に寺山先生は長太郎にみゆきちゃんの事を話していて、長太郎にも味方がいることを伝えいるのですね。どんなに人から誤解をされても、ちゃんと見ていてくれて、分かってくれる存在、味方がいるということ。事情が分かれば、味方になってくれて、長太郎を理解してくれる人、寺山先生がいるという事。それでも、長太郎は群馬に帰ると言い張った長太郎を殴って、さらに、長太郎を「負け犬」だと言い放ちました。
平手に「負け犬」の言葉は、それだけ、取り出すととても酷いと思いますが、既にこの時点で寺山先生は長太郎の意地の強さ、頑固さ、律義さを見抜いていたように思います。長太郎が罰を受けた時に、松島先生が桜間君を許してあげて下さい、と言った時に、寺島先生は長太郎を知るいい機会だと言いました。一連の出来事、みゆきちゃんからの情報、長太郎の態度を見て、長太郎の頑固で自分が悪者にされても、邦彦達に嵌められた事を言わず、それでも怒りが収まらないで怒りに任せて行動した長太郎を知った寺山先生は、長太郎を引き留めるには、多少、乱暴でも長太郎の強がりというか、意地の強さに賭けたのだと思うのです。
「負け犬」と言われて、引っ込む長太郎ではありません。長太郎の意地の強さはそんなもんじゃないからです。それを分かった上で敢えて厳しい言葉を浴びせ、その後に寺山先生の本当の目的、長太郎を東京に引き留める言葉を続けるのです。
負け犬じゃないなら、東京にいろ、って。
なんか、長太郎は寺山先生の勢いに乗せられて、東京にいてやる!って答えて、この騒動は一件落着。
心配で見守っていたみゆきちゃんも笑顔になり、長太郎は勢いづけてみゆきちゃんに抱きつこうとして、みゆきちゃんに驚かれてしまいます。
笑顔になった長太郎が、「わりぃ、わりぃ」と言って、「今日もあばれるぞ!」で締め。
まとめ
この4話も大好きな話の1つです。今回、見返して見て、あれ、こんなに最後はあっさりしていたのかなって思いました。長太郎がみゆきちゃんと寺山先生に理解された話でした。2話で洋一と仲良くなったかなっと思っていたところで、今回は洋一にも突き放されたのが、まだ、長太郎とクラスメイトとの仲が不安定だったのかと思って、そこは、まだ4話だからなって思いました。今回は長太郎の友達を作る事、5年3組に馴染む事の気持ちを邦彦に利用されてしまったのですが、長太郎がクラスに馴染もうとしたのは、3話までの間でも書かれていて、また、邦彦が2話で見直された長太郎に不満を持っていたのもあって、今回の話はその流れで見る事が出来たのと、さらに今回の冒頭での朝食の父ちゃんと母ちゃんからの長太郎の話も重なり、長太郎がクラスメイトに認められるために邦彦に唆されたのも、すんなりと見ることが出来ました。『あばれはっちゃく』は1話完結ですが、ちゃんとその前の話の流れを汲んでいるんですね。
また、今回もサッカーが登場してきて、あんまり強くサッカーを出していないんですが、こうして見返すとサッカーをする場面は意外と『あばれはっちゃく』には多いように感じます。ただ、私が意識しすぎているだけかもしれません。
邦彦はここまでは、本当に嫌な奴なんですが、その後、少しずつ、嫌な面だけじゃないのが見えてきます。
それにしても、カヨちゃんは長太郎にとっては救いですね。1話から長太郎の味方の印象が強くあり、今回もそうでしたが、初代の母ちゃんの持っていた長太郎に対する優しさがカヨちゃんに強く感じました。初代『俺はあばれはっちゃく』15話(脚本・三宅直子、監督・山際永三)で母ちゃんが家を出た長太郎を探しに行く姿を、2代目でカヨちゃんが長太郎に毛布をかける場面で思い出したり。母ちゃんは2代目にも、もちろん、いるんですが、初代の母ちゃんの長太郎への甘さというか優しさの部分は、2代目ではカヨちゃんが引き受けていると感じます。甘いだけでなく厳しい優しさもカヨちゃんは長太郎に示してくれるのですが。
それと、今回も前回に引き続き、監督は松生秀二監督。前回、夕日を背にした信一郎の映像がありましたが、今回も家を出た長太郎がドンペイといる夕日の場面があって、その夕日のオレンジ色がとても印象に残りました。
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