柿の葉日記

主にテレビドラマ「あばれはっちゃく」について語る個人ブログです。国際放映、テレビ朝日とは一切関係がありません。

分かる奴だけ分かればいい

 『あばれはっちゃく』を読み返し、原作の「のしイカ作戦」の話を基礎にして、オリジナルに話を組み替えたのが、初代5話「無抵抗」だと気づく。
しかし、原作を読んでいても、ドラマを見ていても、一見、同じ話を元にしたとは思わず、恥ずかしながら、私は、この初代の5話と原作の「のしイカ大作戦」だけ、原作のアレンジと最初は気づかなかった。
この話は、伝えたいテーマは同じまま、微妙に長太郎の心理を変えて描くことで、その結果、長太郎の性格が変わり、原作の長太郎には、やや足りない「潔さ」を初代長太郎に足している。
原作の長太郎もお人よしさ、負けん気、面倒見の良さがあり、全く魅力のない人物ではない。
また、初代長太郎もいい面だけがある人物ではなく、原作と同様に(これは各代の中でも強く)意地悪で狡賢い部分はあるのだが、原作の長太郎の場合は、呆れはてて馬鹿馬鹿しいと感じ、ドラマの長太郎は仕方がないと腹を括っての行動なので、同じ行動にしても受ける印象が変わってくる。
原作と初代ドラマの長太郎を比べた時に、二人の長太郎の長所、短所を含めて、より、初代長太郎に対して、私が好印象を抱いたのは、この「潔さ」にあったように思う。

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 また、初代5話「無抵抗」を書いた市川靖さんは、2代目9話「あばれアニメだ」でこの話をリメイクするが、これも直ぐに分からない。
この場合は、原作や初代にあった、喧嘩やボクシングというキーワードが2代目のセルフリメイクには登場してこないので、原作の話、初代の5話、2代目9話が同じ話を下敷きにした物だと気づきにくいし、また、そうだとする根拠も乏しい。
ただ、周囲から誤解、軽蔑される長太郎と、見栄を張って信頼を得る正彦と邦彦、その見栄を見破って恥をかかせようとするも、それを諭される長太郎という人間関係に注目すると、それがセルフリメイクだと理解出来る。
この人間関係の図式を初代の他の話で見ていくと、初代の20話(これもまた市川靖さんの脚本)も同じ人間関係の図式に当てはまる。

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 ただ、初代5話では、原作や2代目9話よりも正彦(邦彦)が中心には入ってこないので、原作の正彦(邦彦)の本性がばれるという展開がなくなり、長太郎が正彦の見栄を成立させる為の理不尽な思いをする事がない。
原作と2代目の場合は長太郎が周りに馬鹿にされ、一方で周囲の信頼を得て得をする正彦と邦彦の図式があるが、その心中は逆であり、それを知るのは、原作では現場に立ち会ったヒトミちゃんと2代目では長太郎の家に散髪に来ていて父ちゃんと母ちゃんの会話を聞いたみゆきちゃんのみという図式が出来上がる。

 初代5話では、それとは別に暴力を振るわない約束をした為に、第2小学校の番長の茂達に屈辱な思いを味あわされてた長太郎の悔しさは、当初は公一のみしか知らず、周囲に理解されないが、最終的には級友達に理解される。
これが、初代5話と原作、2代目9話の最大の違いである。
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原作の「のしイカ作戦」と2代目の9話は、いずれも、正彦や邦彦の見栄から出た嘘に対して、長太郎が内心面白くなくても、その嘘に付き合い、周囲には本当の事にするという点が一緒である。
内心、面白くないとへそを曲げている長太郎を諭すのは、原作ではヒトミちゃんの役目だったが2代目では、長太郎の従姉のカヨちゃんが担っている。

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 しかし5話では省かれたが、初代にも先に挙げた20話、他に39話、53話等、いずれも市川靖氏脚本の中で、周囲が分かってくれなくても、一番分かって欲しい相手、初代においてはヒトミちゃんが分かってくれればそれでいい。
という、ささやかながらも、一番、渇望する展開がある。
この「分かる人にだけ分かって欲しい」という、どことない寂しさが市川さん脚本の魅力になっている。少なくとも私はそう思う。

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 こうした話は、初代や2代目に限らず、5代目まで『あばれはっちゃく』を書いてきた市川靖さんの脚本に顕著に出ていて、これが、市川さんの個性だろうと思うし、また、ここであげた初代の5話と2代目の9話の山際監督の特性でもあると私は感じる。山際監督が去られた後では、川島監督がその寂しさを一番表していたように感じる。
また、こうした話は安藤さんも多く書いているのだが(初代の21話「切手コレクション」等)、安藤さんが主にヒトミちゃんに主眼を置いて、その魅力を掘り下げていったのとは別に市川さんは長太郎に主眼を置き、男としての寂しさの方を書いていたと思うし、また、その中で正彦や邦彦の自分を立ててもらった複雑な気持ちも書いてたように私は感じる。

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2010-04-20