アバンタイトル
剣道の防具をつけた長太郎が河原で、次々と襲い掛かる剣士を相手に戦いますが、最後は多勢に押されて袋叩きに。
本編
今回の脚本は、山根優一郎さん、監督は山際監督です。
昇降口からでてくる、正彦、公一、ヒトミちゃん、恵子ちゃん、手袋をしていても、手をさすり、背中を丸めています。佐々木先生が声をかけ、後ろから長太郎が、ヒトミちゃん達に声をかけます。
寒くても元気な長太郎に、ヒトミちゃんが風邪をひいたことがあるかと聞き、「ないよ」って答えた長太郎に、「馬鹿は風邪をひかない」という話題から、馬鹿な長太郎は風邪をひかないと結論づけて、笑いあいます。
ここは、7話(脚本・山根優一郎、監督・新津佐兵)で、ヒトミちゃんと恵子ちゃんが長太郎のことを、
「馬と鹿のストリップ」
と言ったことを思い出しますね。
家に帰ると、放送部のてるほが中学の昼休みに流す放送を録音していて、長太郎の「ただいま」の声を聞いた母ちゃんが「静かに」と長太郎に注意します。
てるほも、長太郎に声をかけ、録音は最初からやりなおし、カセットデッキにテープで録音するやり方が懐かしい。
てるほは、家族をテーマに家族のこと紹介する話をテープに録音していて、長太郎はその内容が気になり、夜にこっそりテープを聞いて、てるほが自分を馬鹿にして紹介していると早とちりをして、録音に細工をします。
長太郎がテープの途中で早とちりをしたのも、てるほの紹介の仕方もありますが、その前に、ヒトミちゃん達に「馬鹿は風邪ひかない」って、自分の事を「馬鹿」だと言われてからかわれたことが下地にあったりするのですね。
翌日、てるほは中学の昼休みに放送部員として、放送室にいますが、お腹の調子が悪くなり、テープを他の部員に渡しして、席を外すと長太郎のせいで内容が変わった放送を廊下で聞いて、長太郎がてるほのことを悪く言ったのが学校中に流れて、学校中の笑い者になったことを知り、てるほは家に帰って長太郎にあたり散らします。
てるほが家族を笑い者にしたからやったという長太郎に、「違う」と反論するてるほを擁護する父ちゃんと母ちゃん。
父ちゃんは、長太郎に「出ていけ!」と言い、長太郎も真冬の外に出ていきます。
そこで、美玉神社にきた長太郎は、放浪の旅をしている男性のお坊さんに出会います。
長太郎が家を追い出された理由を聞いたお坊さんは、自分と死んだお姉さんのことを長太郎にはなし、長太郎を諭します。
今回は、このお坊さんが長太郎に自分の経験を踏まえた上で長太郎を向かい入れ、長太郎のした悪い部分を長太郎に教えるのです。
でも、決して上から目線ではなく、お坊さんの経験した心の傷、後悔、寂しさを思い出しながら、長太郎に自分と同じような後悔や寂しさをさせないように、まだ、取り返しがつく時に、長太郎に間違った道を歩んでほしくないという願いがあって、話しているように、その語り掛ける表情と姿から感じ取れました。
お坊さんは、両親を早くに亡くし、七歳年上の姉さんに育てられましたが、そのお姉さんが癌で亡くなり、以後、お坊さんはお姉さんの霊を慰めるために、各地を回っているということ。お坊さんは長太郎に言います。
「たった、一人しかいないお姉さんを大事にしろよ」
お坊さんはお姉さんと仲は良かったそうですが、きっと、生きている間にもっと、お姉さんを大事にしておきたかったという思いがあって、てるほと喧嘩した長太郎をほっておけなかったのでしょう。
怒りに任せて長太郎を追い出したてるほも、真夜中に出て行った長太郎を心配し、ヒトミちゃんや公一に連絡をした母ちゃんの言葉に、「長太郎がどこにもいない」という情報に心配を隠せません。
翌日、昼休みからずっと、お腹が痛かったてるほがついに痛みに我慢できずに、苦しんでいるのを見て、父ちゃんがタクシーでてるほを病院につれていきます。
長太郎は、お坊さんのところで目が覚め、顔を洗って、家に帰ると、家の鍵がかかっていて、てるほと同じ中学の放送部員の男の子が待っていて、長太郎に校内放送で使ったテープを長太郎に渡します。
「君はひどい奴だな。そのテープ最後まで、よーく聞いてみろよ」
男の子はテープを渡した時に長太郎にそう言って、テープを返しています。録音でてるほが長太郎の事を何と言っていたのかを知っているからこそ、男の子は長太郎にそう言ったのです。巻き戻しをするのに、テープの内容を聞くことはないと思いますが、長太郎のやったことやてるほのこれまでの学校での態度から、てるほがあんな録音テープを作るはずがないという気持ちが、内容を確認するという行為をさせて、男の子は内容を知ったのではないか?と私は、その行動がドラマの中で描かれていなくても、長太郎に言ったセリフから推測しました。
そして、てるほの学校や放送部で築き上げた人間としての信頼の高さも同時に感じたのです。
長太郎は、男の子の言葉に触発されて、録音テープを部屋で聞きます。
テープが流れ、てるほの言葉が流れていくのと重なって、長太郎の表情が微妙に変化をしていきます。この時の長太郎の次第に切なくなっていく、表情が私は好きです。
長太郎の複雑な心の変化をただ座っているだけで、顔の表情と目の動きだけで表現している吉田友紀さんのすごさ。
山際監督は、吉田友紀さんの表現力や身体能力の高さを高く評価され、褒めていましたが、こうした動きの少ないところでも、長太郎の感情をセリフがなく、聞くだけの場面でも自然に発揮できているところが、吉田友紀さんの演技力の高さを物語っていて、山際監督が吉田さんを褒めていたのも分かります。
「でも、わたしは、勉強が大嫌いで、喧嘩やいたずらばかりしている弟が心の底では、どことなく憎めないんです。やはり姉弟の絆で強く結ばれているからでしょうか?おそらく、わたしたちは一生喧嘩をしながら、付き合っていくのかもしれません。だけど、わたしはそれでいいと思うんです。わたしは、この出来の悪い弟をいつまでも、面倒見てやるつもりなのです。次にわたしの母のことを話します」
長太郎は、リビングで母ちゃんの置手紙を見つけて、てるほが入院した病院に向かいます。ここでも、母ちゃんの手紙にある「重病」という言葉と、美玉神社で話をしてくれたお坊さんのお姉さんが癌で死んだことが、重なって長太郎の不安を仰ぎます。
今回の話は、長太郎が心理的に不安になり、行動を起こす理由付けの下敷きがちゃんと前振りがしっかりあります。
長太郎が病院に駆けつけた時、ちょうど、てるほが手術室に入るところで、長太郎はてるほに声をかけて励まします。手術中にてるほが癌ではなく、盲腸炎だと知って安心する長太郎。手術が成功して、長太郎は素直にてるほに謝り、てるほも長太郎を許します。一晩、長太郎がどこに行っていたかと父ちゃんがてるほに尋ね、長太郎が旅のお坊さんと美玉神社にいたことを話します。
長太郎は、美玉神社で裸足でお百度参り。正彦、公一、ヒトミちゃん、恵子ちゃんが来て話しかけて、てるほの病状を聞き、てるほの為に「お百度参りをしているんでしょ」と言って、「そんなの迷信、科学的じゃないよ」 って、正彦は言いますが、「長太郎は科学で解明できないことは、この世の中にある」と正彦の言葉を跳ね返します。
4人が話しかけるので、どこまでお百度参りをしたか分からなくなって、怒鳴る長太郎。そこへ、お坊さんが来て、長太郎に声をかけます。「何度でも、お姉さんが治るまでお参りすると良い」と。
家に帰ると、病院でてるほに付き添っている母ちゃんと電話をしている父ちゃんが長太郎を出迎え、てるほの録音したテープを聞き、てるほにはディスクジョッキーの才能があると言ってご機嫌で自分の事を紹介するてるほの言葉を聞いています。
それを聞く、長太郎の顔は嬉しそう。
入院して寝ているてるほのベットの横で編み物をしている母ちゃんが、窓の外で雪が降っているのに気がつきます。
「どおりで寒いわけだわ」
1980年当時、放送されていた時の神奈川県、東京に雪は降っていたのでしょうか?雪国だったら、降っていたかもしれません。今年、2018年には、東京に珍しく大雪が降って4日経ち、48年ぶりの大寒波が来ましたが、1980年のこの日もきっと寒かったのだと思います。その雪の降る寒さの中で、裸足でお百度参りをしいている長太郎のてるほへの優しい思いは、本当にすごいですね。
長太郎は、学校で盲腸の手術の後、おならを出す方法を佐々木先生に尋ねます。周りには、ヒトミちゃん、正彦、公一、恵子ちゃん、明子、小百合達もいて、口々におならの出し方を提案します。
その中で、佐々木先生は、体は一直線に繋がっているから、鼻を刺激すれば出てくるかもと言います。
これは、私が短大で解剖生理学でならったのですが、人間は、口と肛門が繋がった一本のホースみたいなものと考えが同じだと思います。
長太郎はてるほの鼻を刺激して、くしゃみをさせ、そのはずみでおならが出ます。結果、迷信よりも、現実的な方法でくしゃみを出させましたが、人を思いやる心があって、現実的な方法が出来たっていうのもあり、一概にお百度参りを侮っては駄目だなって思います。
最後の場面で長太郎が、ランドセルを放り投げて、長太郎の0点のテストの答案が出てきて、さらには、雪の中、裸足でお百度参りをしても、風邪をひいていない長太郎が、話の冒頭でヒトミちゃん達が話していた
「馬鹿は風邪をひかない」
というのを証明していて、話のオチになっています。
この話のてるほの長太郎を思う優しさ、長太郎がてるほを思う優しさがとても大好きで、私は『俺はあばれはっちゃく』全話の中で、この話が一番大好きなのです。